電気自動車のテスラ社の時価総額が6000億ドル(63兆円)を超えています。普通の自動車業界の世界トップを走るトヨタが26兆円であることからしても2.5倍もの価値が付くのはなぜでしょうか?夢と論理の差をそこに見ることになるでしょうか?
株式投資をされる方は各種指標をベースに投資の尺度を図ることも多いと思います。その一つにPER(株価収益率)の倍率をみることでその妥当性を判断します。現在の日経平均のPERで25倍程度。これでもかなり高い方で15倍程度が心地よいレベルだと思います。日経平均のPERが高めの水準にあるのは企業の利益率がコロナで下がっているもののカネ余り現象でコロナ後に業績が回復する前提で株価が高くなっていることを意味しています。
テスラのPERは現在1200倍ちょっとです。常識から考えればとてもここから買い上げることはできません。しかし、一部のファンドではさらに上がるとみる向きもあり、一番強気筋では24年までに7000㌦という雲をつかむような予想をしているところもあります。
私なりの解説をすれば将来世界で電気自動車が主流になるにあたり、同社がそのリーディングイノベーターになるだろうという期待であります。本当にその思惑通りになるのでしょうか?
自転車のロードレースを想像してみましょう。しばしば先行隊で数名が飛び出していきます。しかし、この先行隊は多くの場合、プロトンと称される本体に吸収されやすいものです。競馬でも先行逃げ切りはそうあるものではないし、陸上の中長距離競技でも中盤から追いあげるというケースはよく見られるレース展開です。しかも会社経営は原則ゴールがない超長期を前提としています。
一つの会社がずっとその先行逃げ切りをするのは極めて難しいのです。そんなことが当たり前なら世の中の会社は今の100万分の1あればよくなりなり業界は1つかごく少ない会社に収れんしてしまいます。そうならないのは追随者が現れるというよりも逃げ切るだけの新たな発見、開発、支援材料は独占できないからなのです。だから半導体や携帯電話のランクは世代ごとに常に入れ替わっています。
そうみればテスラ社は夢を追う会社から現実的な会社になりやすくなり、同社の現実的な株価である100ドル程度との間をさまよう時が来るのかもしれません。但し、アマゾンのようにその間に収益力をつければ300ドル、500ドル、あるいは今より高い1000ドルになるのかもしれません。あくまでもどの時点で見るかによります。いつかはわかりませんが。
同様にファーストリテイリング(ユニクロ)の株価も「常識ある人なら買えない」と言われています。PERは95倍、PBR(株価純資産倍率)も9倍と見てしまうと高所恐怖症になるところです。しかし、同社はアパレル業界が半導体のように日進月歩ほどではなく、息の長い成長を遂げていることで勇気ある投資家(これ日銀ですが)に利益をもたらせたということになります。
ところで2021年にはインフレが起きるのではないかという見方があります。理由はカネ余り現象で個人の懐が相当温かいもののコロナで使いようがないというものです。日本の方が聞けば「何を言っているのかわからない」と思われるでしょうが、カナダにいる私の肌感覚ではそれは感じます。人々は使いたくてしょうがなく、旅行やパーティーなどの社交、それに合わせて洋服やインテリアへの出費、高級レストランでの至福の時を待っている、そんな感じです。
私のところのマリーナの年間契約の問い合わせもコンスタントに増え、現在は5年待ちぐらいなのですが、ボート買っちゃったからどうにかして、という切実な要求が多いのも最近の特徴です。
では本当にインフレが来るのか、と言えばコロナが収まれば一時的に消費全般が上向き、一部の予約は全く取れない状態になるもののそれが社会全体の需要増大となり、インフレになるとは思えません。理由は「消費の代替」であります。例えばAというレストランの予約が1カ月先まで一杯だからBとかCにするという妥協はあまりしないでしょう。Aに行く日を待ち望んでいたとみるのが普通であり、これはAレストランが繁盛するものの消費の代替波及性はないのです。
こう考えればカネ余りの富裕層は別格であり、一般消費者目線でみると総需要と総供給という教科書で習うような話になってしまい、物価を中長期的に押し上げるものではないとみています。その背景は所得がそこまで伸びていない点です。つまり、いま言うカネ余りは消費が1年にわたり、縮んでいたことと政府の支援金で労せずしてもらったお金で懐が温かいという錯覚状態に陥った小金持ち気分で底は浅いとみています。
コロナが収まれば現実社会が待っている、これが私の見立てる予想です。株価はコロナ後を見据えて夢を見ていますが、もうすぐ目を覚まさざるを得ません。一方、大衆はコロナが無くなれば自由を満喫できると思っていますが、現実には所得が伴わなくてはならず、政府の支援金は当然無くなるわけで下駄をはかせてもらっていた分、現実社会の厳しさを逆に感じてしまう結果になるのかもしれません。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2020年12月17日の記事より転載させていただきました。