「医療リテラシー」という言葉を聞いたことはありますか? 最近、マネーや統計などでもですが、「○○リテラシー」という言葉がよくきかれるようになりました。「リテラシー」とは、文字通りには「読み書き能力」のことで、現実に使われる意味としては、「理解して、判断や行動に反映できる力」でしょうか。
「医療リテラシー」とはつまり、「医療情報や医療制度を正しく理解し、医療において、適切な判断や選択、行動ができる能力」ということになります。
今回のコロナ禍では、本当に様々な、玉石混交の情報が飛び交っています。初期の頃には、「何がなんでもPCR検査をするべきだ」というワイドショーの大合唱にはじまり、恐怖をあおる報道が連日なされ、陰謀論も飛び出しました。その後、国内での感染拡大の広がりに伴い、状況は複雑化しています。
今においては、「こうすればコロナウイルスの拡大が防げる」という単純な答えはなく、何をするのが適切なのかは、自身の感染予防も含めて、ケースバイケースであることも多いのです。たとえば、「外食」ひとつとっても、全ての外食が危険なわけではありません。一人や同居家族で、感染対策のきちんとなされた店でする短時間の外食は比較的安全でしょうし、一方で、換気の悪い店で、大勢が大きな声でしゃべりながら飲み会をするのは非常に危険といえます。旅行についても同じで、ソロキャンプでほぼ誰とも会わずに車で旅するのと、複数人で旅行し、現地で夕食に歓楽街に繰り出すのとは全くリスクが変わってきます。
今は、「○○するのは悪い、○○はよい」とは、単純には言えず、細かい状況にあわせてリスクを判断し、行動するしかありません。一方で、Go Toにいく人たちをバッシングするのも、リテラシーの高い行為とはいえないでしょう。
また、医療や日常生活のどんな行為でも、「利益/メリット」と「リスク/デメリット」があります。例えば、複数人での外食の「利益」は、「おいしいものが食べられた」「他の人と交流が深められた」ということでしょうし、現状での「リスク」は、「感染」であるといえます。
医療では、手術や薬、ちょっとした検査を含めて、どんなことでも、「得られるメリットがデメリット(リスク)を上回ると考えられる場合に行う」という大原則があります。明らかなデメリットが上回る場合には、その治療や検査は行うべきではありません。コロナウイルス感染症が猖獗を極める現在、日常生活での行為も、「メリットとデメリットを比べて、その行動を行うべきか検討する」ことは有効といえるでしょう。
「遠方あるいは施設にいる親に会うべきかどうか」と、悩まれている方も多いでしょうが、これにも、「万人にとって絶対の正解」はありません。今回会わなければ、亡くなるまで会えないかもしれない、というケースもあるでしょう。親の健康状態、予想される寿命、地域の流行状況や、施設にいる場合は施設の感染対策の状況などを総合的に見て、「メリットとデメリット」を天秤にかける必要があります。
もうお分かりかもしれませんが、「メリットとデメリット」は、感染や死といった物理的なことがらのみではなく、「親と会えて精神的に幸せになった」「このほうが後悔しない」などの、精神的なことがら、個人の価値観にもかかわってくる部分でもあります。
コロナウイルス感染症だけでなく、医療・健康全般において、バランスのよい幸せな生活を送るためには、医療情報/医療制度について正しく理解し、適切に判断し、行動できる力、つまり医療リテラシーが、今後生きていく上で、一般の方にもより重要なものになるだろう、という思いから、わたしは今回、「自身を守り家族を守る医療リテラシー読本」(12月17日発売、翔泳社)を上梓しました。不確実な情報やマスコミ報道に惑わされず、自分で判断できる能力が、今後複雑化する時代において、どんな分野でも重要になるでしょう。
「自身を守り家族を守る医療リテラシー読本」(12月17日発売、翔泳社)
■序章 医療リテラシーを身につけたい理由
そもそも医療リテラシーとは何か/「病院受診の仕方」や「薬への考え方」も「医療リテラシー」の一つ など
■第1章 どうして医療情報は、わかりにくいのか〜正しくおそれる大切さ〜
医師と患者の間には、「情報の非対称性」がある/医師と患者のコミュニケーションのコツ(5W1Hで整理しよう)/「知識と常識」のアップデート〜新型コロナウイルスを例に/「エビデンス」の基礎/知っておきたい「リスク」の考え方 など
■第2章 「デマ」や「偏った情報」の特徴
「○○に効く!」100%の断定はうそを疑おう/「免疫力」という魔法の言葉/「○○の陰謀」/利益相反とは/「医師」「患者」双方に取材しない報道/有名医師・研究者が推薦/動物実験で「効果あり」の情報に注意!/研究の限界(バイアスとリミテーション)
■第3章 自身を守り家族を守る医療情報リテラシー〜その上手な分析法、活用法〜
どこから医療情報を得る?/どのサイトを見ればいい?/「情報ソース」を探そう/「ファクトとオピニオン」を区別しよう など
■第4章「感染症・放射線・がん」で具体的に学ぶ医療リテラシー
ウイルスと細菌の違い(ウイルスに抗生物質は効かない)/「感染経路」とは/新型コロナウイルスに学ぶ「検査を受けること」の意味/感染症の「ワクチン」と「薬」の話/放射線とはどんなもの?/「放射線を浴びたらがんになる」のは本当か/がん治療で知っておきたいこと/がんは「早く見つけすぎる」場合もある など
■第5章 知っておきたい「病院のかかり方、薬のもらい方」
何かにかかればいいかわからない人のために/行くなら大病院? 個人のクリニック?/薬は、たくさんもらえばいいわけではない理由/「病院に行かない」選択肢もある
特典:
- ) 1冊購入:冬期のコロナウイルス対策PDF
- ) 2冊以上購入:過去の講演動画「みなさんに知っていただきたい医療リテラシーの身に付け方」
- ) 10冊以上購入:zoomで講演します(お一人でも、大勢でも)