日本医師会が「医療緊急事態」を打開するためにできること

池田 信夫

きのう日本医師会など9団体が医療緊急事態宣言を出した。それによると日本は医療崩壊の瀬戸際で、このままでは「国民が通常の医療を受けら れなくなり、全国で必要なすべての医療提供が立ち行かなくなります」という。

医療が逼迫していることは事実だろうが、日本のコロナ死亡率はヨーロッパの1/50で、人口あたり病床数は世界一である。それが本当に崩壊の危機に瀕しているのだろうか。

上の表は感染症指定医療機関の病床使用状況だが、コロナ対策病床の使用率は50.5%。つまり半分のベッドはあいている。これは最適化問題としてはtrivialで、利用可能フロンティアまで資源を使っていないのだから、不足している地域の病院に余っている地域の資源を配分すればいい。

具体的には、大阪府だけが3511床の病床に対して3759人と足りないが、隣の兵庫県では1659床のほぼ半分があいており、和歌山県では537床のうち32しか埋まっていないので、大阪の患者を兵庫や和歌山の指定医療機関に移送すれば解決する。

ボランティアで県境を超えた患者の受け入れを

しかしそれは今の医療体制ではできない。医療法では国や自治体が民間の医療法人に指示・命令できないからだ。指定感染症でも、受け入れは強制できない。いま受け入れている病院は使命感でやっているので、彼らが「うちはもうキャパがありません」といえば拒否できる。

これは病院が嘘をついているという意味ではない。指定感染症の受け入れにかかる固定費が大きく、コロナ患者が集まると一般患者が寄り付かなくなるため、ベッドがあいていても経営が立ち行かなくなるのだ。

医療法人といえども市場経済でビジネスをしている以上、こういうゆがみは避けられない。医療法を改正しないかぎり、行政は受け入れを命令できない。おまけに唐木英明氏も指摘するように、指定感染症に指定されると支援要員は指定医療機関に入れないなど、医療資源の融通が困難になる。

そこで当面の解決策として、医療資源の逼迫している東京都や大阪府の近隣の指定医療機関が県境を超えて患者を受け入れしてはどうだろうか。法的に強制できなくても、ボランティアベースなら協力できる。強い使命感をもっている日本医師会が「医療緊急事態」の打開に指導力を発揮し、国もそれを支援する補助金(あるいは健康保険の点数加算)を出せばいい。