政府は、国民の不安、不満を独自調査すべき

田原総一朗です。

新型コロナウイルスが猛威を振るっている。
11月25日に西村経済再生大臣が、「勝負の3週間」として国民に感染拡大防止を呼び掛けたものの、「Go Toトラベル」は継続。政府は無策と言ってもいい状態だった。

菅首相と小池東京都知事は11月24日と12月1日の2度会談しているが、その結果、東京都では、東京発着の旅行について「65歳以上と基礎疾患のある人の自粛」のみ。そもそも、高齢者と基礎疾患のある方は、ほとんどが注意しているはずで、むしろ、この呼びかけで「若い世代は積極的に動いていい」というお墨付きになってしまったという声もある。

12月9日には、分科会の尾身会長が、「ステージ3相当の地域のGo Toトラベル停止」と、東京都については「すべての人を対象にGo Toトラベルの一時停止」を訴えている。

しかし、菅首相は12月11日に出演したインターネット動画中継サイト「ニコニコ生放送」の番組に出演し、「まだそこは考えていません」と発言。尾身会長の提言を無視した形となった。

ところが「勝負の3週間」も終盤に近付いた12月14日、突如、菅首相が、「Go Toトラベル停止」を宣言したのだ。直接の引き金は、12日に毎日新聞が行った世論調査だとされる。

菅内閣の支持率は40%、
不支持率は49%。
不支持率が支持率を初めて上回った。新型コロナ対策については、「評価しない」が62%だった。

この結果に、菅内閣が慌てて、「Go Toトラベル停止」を決定したのではないかと言われている。

しかし、世論調査で慌てたのであれば、政府はそれまで、国民の不安や不満を独自に調査してこなかったのだろうか。海外ではどの先進国でも実施しているはずである。
または菅内閣の支持率が、発足以来高かったので、安心しきっていたのだろうか。
だとすれば、国民を甘く見ていたと言っていい。

私は、4月に緊急事態宣言が出た直後、安倍前首相に会って聞いた話を思い出した。
私は、日本の緊急事態宣言が諸外国よりなぜこんなに遅れたのか、と質問した。

すると安倍首相は野党の反対が強かったこと、日本では宣言を出しても法律上罰則をもうけられないことを挙げた。
安倍首相はまた、「日本国民はそこまでしなくても、言うことを聞いてくれる」と言った。

菅首相にも、こうした気持ちがあるのではないか。

なるほど、確かに日本人は、罰則がなくても、政府の呼びかけをきちんと守り、マスクもきちんとするし、ディスタンスも取ろうとする。
すばらしい国民性だと思うが、安倍前首相、菅首相ともに、その真面目さに、安心しきっているのではないか。
諸外国のような厳しい制限をしなくとも国民は感染防止を気を付けてくれるだろう、という、いわば「甘え」である。

14日に「Go Toトラベル停止」を決定したが、その後、新規感染者数は最多を更新し、12月17日、東京都は822人となった。一向におさまる気配はない。
そんななか菅首相の会食問題も起きた。
どうも菅首相の動静が、ちぐはぐに思えてならない。

今、菅首相には、率直に意見を言ってくれる側近がいないのではないか。
安倍内閣には、菅官房長官がいた。
しかし、菅内閣に「菅官房長官」はいないのである。


編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2020年12月25日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。