ナイジェル・ファラージ氏(56)は英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)を積極的に推進し、長い間欧州議会議員を務めてきた政治家だ。同氏が12月27日、ニューズウイークに、新型コロナウイルスの感染問題をテーマに「今年のクリスマスを台無しにしたのは中国共産党政権だ」と強調し、新型コロナ感染によって生じた損害の賠償を北京政府に求める記事を寄稿している。同氏の大衆迎合的な姿勢には批判もあるが、新型コロナ感染問題で中国の責任を追及する論調には拍手を送りたい。以下、同氏の主張の一部を紹介する。
EUがワクチン接種開始を宣言した直後、英国内で感染力が強い新型コロナウイルスの変異種が見つかり、英仏海峡が一時的に閉鎖されたが、同時に、認可され、接種が始まったワクチンの有効性に懸念を表明する声が飛び出すなど、クリスマスを祝う人々の移動は再び制限されてしまった。
よほど頭ににきたのだろう。ファラージ氏は、「クリスマスの祝日は中国によってキャンセルされてしまった」と怒りを発し、同時に「驚くべきことは、クリスマスを台無しにされたにもかかわらず、中国への批判の声が余り聞かれないことだ」と指摘する。
同氏は、「新型コロナウイルスが中国からもたらされたことは明確だ。中国共産党政権はそれを隠蔽し、その間多くの中国人が世界を飛び歩いてきた。中国は嘘をつき、人々は死んでいった」と強調し、「今週、人々の不気味な沈黙の背後に何があるのかをを見つけた」という。そしてジョンソン英首相が国民にクリスマスの日に家族で集まるのをやめ、各自、家に留まるべきだとアピールしているのを聞いて、「高まる怒りを感じた」と吐露。そこでツイッターで「クリスマスはキャンセルされた。中国のせいだ」と発したというわけである。
ファラージ氏によれば、4万5000の人々がリツイートしてきたという。同氏は、「私への膨大な支持は多くの人々が新型コロナウイルスへの中国側の対応やウイグル人への残虐な政策に怒り、この残虐非道な政権に対して可能な限り関わらないことを願っていることを端的に示している」と解説したうえで、「それにしてもなぜ西側の政治指導者は中国共産党政権に批判の声を挙げないのか」と問いかけている。
同氏のツイート後、中国国営メディアの「チャイナ・デイリー」記者から同氏への攻撃的で下品な言葉の非難が飛んできたという。たとえば、「マスクを着けて、話すのを止めろ」、「トランプのような民族主義者め」といったものだ。
このコラム欄では海外に派遣されている中国外交官の品性のなさ、ヤクザのような言動について「戦狼外交」と呼んで報告してきたが、中国外交官だけではなく、中国人ジャーナリストにも「戦狼ジャーナリスト」がたむろしているわけだ(「世界に恥を広げる中国の『戦狼外交』」2020年10月22日参考)。
中国のメディアでは、「中国は素晴らしい政府のおかげで国民の日常生活は正常化したが、西側民主主義国では新型コロナ感染で国民経済は完全に混乱している」といった揶揄ったトーンがある。ファラージ氏は、「自分は批判や中傷には慣れているが、問題は、公の立場にある多くの人々がこの種の中傷批判を避けるために沈黙という安易な選択に陥っていることだ」と指摘している。
ファラージ氏は、「私は今、中国の監視網に入ったので、今後様々な嫌がらせが来るだろう。私のケースは細やかな例に過ぎない。東南アジア地域では中国の覇権の手が伸びてきているから、懸命にそれに応戦している。トランプ米政権は台湾や東南アジア諸国に巨大な支援をしている。ジョー・バイデン氏のホワイトハウスは中国に対し、はっきりと対抗姿勢を見せることができるだろうか」と述べている。
同氏は、「私が恐れることは、西側政府の中に中国の横暴な強権政治に対して立ち上がる勇気のある政府がないことだ。我々は中国に依存してきた。中国共産党政権は自国民さえ無慈悲に殺害し、一党独裁政治に従わせている国だ。実際、西側の多くの政治家は中国に買われている」と批判する。
そして最後に、「このパンデミックは中国のせいだ。西側は世界経済に与えた損害の賠償を要求すべきだ。これこそ私の2021年、追及していきたいテーマだ。中国共産党政権が私を嫌うことはハッピーだ。私に対する称賛を意味するからだ。しかし、どれだけの人々が中国と対抗し、北京から非難を浴びても耐えられる準備があるだろうか」と、重ねて問いかける。
ジグマ―ル・ガブリエル独外相(当時)が2018年2月17日、独南部バイエルン州のミュンヘンで開催された安全保障会議(MSC)で、中国の習近平国家主席が推進する「一帯一路」構想に言及し、「新シルクロードはマルコポーロの感傷的な思いではなく、中国の国益に奉仕する包括的なシステム開発に寄与するものだ。もはや、単なる経済的エリアの問題ではない。欧米の価値体系、社会モデルと対抗する包括的システムを構築してきている。そのシステムは自由、民主主義、人権を土台とはしていない」、「現代で中国だけが世界的、地政学的戦略を有している。一方、欧米諸国はそれに対抗できる新しいグローバルな秩序構築のアイデアを提示していない」と語り、大きな反響を呼んだことを思い出す。ファラージ氏の今回の記事は、それに匹敵する鋭い中国批判だ。(「独外相、中国の『一帯一路』を批判」2018年3月4日参考)
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2020年12月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。