資本主義の「脱物質化」で人類の未来は明るい

池田 信夫

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新年おめでとうございます。昨年は暗い話題ばかりでしたが、正月ぐらい明るい話をしたいものです。

人類の未来についての暗い予言は、昔からたくさんあります。1972年、ローマクラブは『成長の限界』というレポートで、石油、石炭、天然ガスなどの天然資源が2004年までに枯渇すると予言し、大きな反響を呼びました。しかしそれから50年たった今、どの資源の可採埋蔵量も当時より増えています。

2013年に国連IPCCの第5次評価報告書は、2100年までにCO2排出量が最大で現在の3倍以上に増えると予想しました。ところがIEAの世界エネルギー見通しでは、2020年の世界のCO2排出量は前年より8%減り、今後もほぼ横ばいと予想しています。

IPCCとIEAのCO2見通し(Burgess et al.

上の図のIEA見通しはコロナでエネルギー消費が大幅に減る前の数字ですが、2020年の見通しでは2020年代のCO2排出は2019年より低くなると予想しています。来年出るIPCCの第6次評価報告書は、大幅に下方修正する予定です。

ローマクラブの予測もIPCCの評価報告書も、多くの科学者が膨大なデータを使ったコンピュータ・シミュレーションの結果でした。それが大きくはずれたのはなぜでしょうか?

一つの原因は、イノベーションを無視したことです。ローマクラブの直後に起こった石油危機で資源価格が暴騰し、新たな資源開発が採算に乗るようになりました。IPCCの報告書のあと世界各国で再生可能エネルギーに多額の補助金が投入され、再エネが急成長しました。シェールガスの開発で、石炭の消費量は2014年にピークアウトしました。

もう一つの原因は、経済成長を過大に想定したことです。ローマクラブは「人口爆発」でエネルギー消費が激増すると予想し、IPCCは2100年までに世界のGDPが5倍になると想定しました。しかし2010年代には先進国はほぼゼロ成長になり、その影響で途上国の成長も大きく減速しています。

豊かになるとエネルギー消費は減る

根本的な原因は、資本主義が脱物質化したことです。1990年代から始まったデジタル革命でIT産業が急成長しましたが、エネルギー消費はそれほど増えていません。次の図のように日本では、2000年代前半にエネルギー消費はピークアウトしました。豊かになるとエネルギー消費は減るのです。

最終エネルギー消費と実質GDPの推移(経産省)

人々は貧困から解放されると、非物質的な豊かさを求めます。食糧や生活必需品の消費は減り、地球温暖化のような日常生活に関係のない問題に関心をもつようになります。しかし途上国では今も、地球の平均気温より貧困や感染症が最大の問題です。

先進国が工業化した1800年以降、世界のエネルギー消費は35倍になりましたが、資本主義は人々を飢えや病気から解放しました。産業革命まで世界の平均寿命は30歳未満でした。いま人類は歴史上もっとも豊かな時代に生きているのです。

成長を止めろという人もいますが、それは逆です。豊かになるとエネルギー消費は減るので、温暖化を防ぐもっとも効果的な方法は、世界が豊かになることです。もちろん今すぐ全世界のエネルギー消費が減ることは考えられないので、温暖化対策は必要ですが、地球温暖化は人類の終わりではありません。

資本主義の脱物質化は、政府の規制よりはるかに大きな効果がありますが、GDPベースでは「長期停滞」とみえるので、情報量や快適性などの新しい指標が必要でしょう。政府がやるべきなのはCO2排出規制ではなく、技術輸出で世界に豊かさを広げることです。

1月8日からのアゴラ経済塾「デジタル資本主義の未来」では、こういう問題も考えたいと思います(申し込み受け付け中)。