日本維新の会は参議院選後より税と社会保障と雇用の三位一体改革と題して、ベーシックインカムを用いたパッケージ政策の策定を進めてきました。そのアウトラインがついに、取りまとめ役である藤田文武衆議院議員により公表されました。
動画は前後編合計60分と長いので、ここではどのような方向性が示されたか抽出、整理することで、時間の無い方にも関心を持ち、社会保障に関する議論への参加を促したいと思います。
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まず改革の意図として、貯蓄や内部留保による停滞から、将来への投資とチャレンジによる流動性に変えることで、経済成長政策・少子化対策・行政効率化を同時に達成する。そのためにフローからストックへの課税へ移行していく。これは今の利益を重視する自民党に対し、将来の利益を重視して制度により社会の変化を目指す、維新の独自色を出したいというものでした。
要点を以下に書き起こします。
- ベーシックインカムとして全国民一律で6~7万円を毎月給付する。基礎年金・生活扶助・児童手当はBIに移行する。
- 高齢者にはさらに一律2万円程度の上乗せをする。これはクローバック制度として、支給額のうち死後残った分のは国庫に返納する。
- 医療・介護・障碍・教育などの現物支給サービスは本改革案には含めない。
- フロー課税である消費税・所得税・法人税は減税。所得税は税額控除を廃止し、10%程度のフラットタックスとし、分離課税を廃止して総合課税とする。法人税は租税特別措置を廃止する。
- ストック課税強化として、固定資産税を現行1.4% → 2%へ増税。資産課税として1%程度を新設。相続税や贈与税は縮小、あるいは廃止。
藤田氏は本プランの核となるベーシックインカムの予算は約100兆円だと言及し、その財源は基礎年金25兆円、生活保護2兆円、児童手当2兆円の合流と、新設の資産課税による税収36兆円、所得税控除と租税特別措置の廃止などを主に充てる試算となっているようです。
このプランの特徴は基礎年金と生活保護、児童手当を包括するという部分で、特に年金の持続性への強い問題意識を感じます。年金改革論としては2019年の参議院選挙で維新が訴えていた賦課方式から積立方式の移行よりも合理的と感じます。積立方式はインフレへの耐性が弱いという弱点を抱えています。
またパートタイマーが配偶者の扶養を外れて税率があがってしまう103万円の壁や、生活保護受給のハードルによる労働意欲の低下など、各制度間にできてしまったバグを一度に解消しようという方向性は賛成です。
全体的には所得税控除の廃止による高所得者へのBI給付の回収や、高齢者へのクローバック制度など、「一度配布してからあとで回収する」という先払い方式が特徴的です。これは現状の年金への課税と同じ建付けになっています。
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しかし税額控除や租税回避措置に関して抵抗勢力を恐れない姿勢は勇ましいですが、国政においてこのように辻褄の合う改革はどこまでできるでしょうか。
維新ベーシックインカムプランでは政府予算総額は膨張しますが、既にご存知の通りそれが再分配の予算として使用されるかはわかりません。税金として国庫に入った時点で、裁量権は行政側が握るからです。
具体例として2019年の消費増税は社会保険料の増加分という説明で実施されましたが、使えるお金が増えた行政は保育無償化の補助金を新設して、赤字を減らすどころか支出を拡大しました。
別の例として、2010年から施行された子ども手当はその財源として15歳未満の基礎控除を廃止して導入されました。しかし2020年の今議論されているのは子ども手当の減額(所得制限の引き下げ)です。15歳未満の基礎控除は一体どこにいってしまったのでしょう。
また「国内の投資価値を高める」と言及がありましたが、ストック課税は一般的にはキャピタルフライトを促進させる方向に動くため矛盾します。このような増税論は財務省のニーズに応じ、切り取られて加速される恐れもあるのではないでしょうか。国内の投資価値を高めるためには、総量としての減税をしなければ達成できません。
このように予算規模を拡大して再分配をするというのは、長期的に見て国民の負担が増えるだけです。税と社会保障の一体改革によって国民の生活レベルを向上させ、経済刺激をしていくならば、予算規模の縮小と減税・控除・簡素化のいずれかを用いて押し進めなければ、実効性を持ちません。
財政規模拡大を防ぐためには控除付き税額控除を維新BIプランと同額程度、年間80万円の控除枠として導入するほうが良いですが、現状の確定申告制度に基づく場合「後払い方式」になるのが欠点となります。
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また租税特別措置や税額控除は廃止が望ましいと動画内では一言でいっていましたが、一つ一つが業界単位での事業継続性に関わってくるほどの重みがあります。これらはマクロの観点で「このように設計したほうが良い」と言っても、岩盤規制の改革は簡単には進みません。
そこで各業界内での改革としてアメリカで実施された、「2対1ルール」の導入を推進してはどうでしょうか。これは規制や補助金1つを新設するために、2つ以上の規制や補助金を廃止するルールです。制度の総数に上限を設けることで、現状にそぐわない制度が残り続け、複雑化と非効率が拡大し続けることに歯止めをかけ、自動的に規制緩和が促進します。
業界内部で今に見合った制度へ統廃合を進めるのであれば合意形成もしやすい。このようなミクロの改革の積み重ねを促進させるほうが、世代間や業界間での対立を最小限にし、改革の停滞を防ぎます。
(参考)アメリカの「2対1ルール」とカナダの「One-for-One-Rule」の概要 国立国会図書館 調査および立法考査局 行政法務調査室 ー 参議院議員 浜田聡のブログ(2020年11月18日)
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また個人的に関心を引いたのは年金の報酬比例部分、通称二階建て部分です。維新案では「そのままにする」ということでしたが、老齢基礎年金のみを政府の役割と位置付ければ、もっと年金は合理化できます。
現役世代は所得の18.3%もの年金保険料を支払っているにも関わらず、支給年齢引き上げや年金支給額への課税などで、既に損しまくっています。年金が払った分帰ってくるなどと思っている若者はいないでしょうし、年金があるかどうも疑わしい、これ以上大損しないうちに多少の損があっても損切りしたいというのが、私の率直な感想です。
公園運営の民営化によるサービス向上で大きな実績がある維新こそ、ここに取り組んで欲しいです。
(参考)年金民営化について(報告:東京学芸大学・小塩隆士助教授) ー ニッセイ基礎研究所(2000年7月14日)
以上、まとめる都合上省いた部分も多いので、違和感のある部分は動画をご確認ください。また藤田文武氏は、この試算はあくまでプランの一つであると位置づけ、ブラッシュアップのために意見を募りたいということでした。
維新ベーシックインカム案によって、社会保障制度改革の議論が活性化することを期待します。