尾木直樹氏はそれでも教育者ですか?

藤原 かずえ

2021年1月6日、翌1月7日に緊急事態宣言の発令が予想される中、僅か1時間ほどの時間差でYahoo!ニュースに次の2つの記事が配信されました(冒頭の画像はスクリーンショット)。

[1/6(水) 19:01配信 婦人公論JP]
尾木ママ「学校の一斉休校で、子どもの逃げ場がなくなった」
尾木直樹氏:親は焦りますよね。「私がちゃんと監督しないと、うちの子が落ちこぼれる」という不安からガンガン勉強させる。次第に言葉もキツくなって。お母さんは子どもをケアする立場なのに、先生と同じように目を光らせている。親子関係は崩れ、子どもの逃げ場がなくなってしまいます。

 

[1/6(水) 20:15配信 スポニチアネックス]
尾木ママ 緊急事態宣言でも一斉休校を求めない方針の政府へ怒り心頭「なんて無防備」「なんて野蛮」
尾木直樹氏:我が国は緊急事態宣言発出の状況であるにも関わらず全て休園休校にしないというのです。なんて無防備。なんて野蛮。自主休校にせざるを得ない親の気持ち、よくわかります。

以上の【前提 premise】を用いて、以下に簡単な【演繹論証 deductive argument】を行ってみたいと思います。

まず、『婦人公論JP』の記事で尾木氏は「学校が一斉休校になったこと」を根拠にして「政府批判」を展開しています。

一方、『スポニチ・アネックス』の記事(実際には[ブログ記事])で尾木氏は「学校が一斉休校にならないこと」を根拠にして「政府批判」を展開しています。

2つの政府批判におけるそれぞれの根拠(学校が一斉休校になること/学校が一斉休校にならないこと)は相互に【矛盾 contradiction】する概念であり、尾木氏はこの矛盾概念をそれぞれ根拠として用いて1つの【結論 conclusion】(政府批判)を導いています。これは、【排中律 Law of excluded middle】により、学校が一斉休校になろうがなるまいが、根拠なく政府批判を展開していることに他なりません。

[前回記事]でも紹介しましたが、このように相互に矛盾する根拠を基に1つの結論を導く【誤謬 logical fallacy】を【ケトルの論理 kettle logic】と言います。

もし尾木氏がケトルの論理を無意識に用いたとすれば、極めて【非論理的 illogical】であり、教育者/教育評論家として妥当な行為ではありません。一方、尾木氏がケトルの論理を意識的に用いたとすれば、極めて【非倫理的 unethical】であり、教育者/教育評論家として妥当な行為ではありません。つまり、排中律より「尾木氏がケトルの論理を無意識に用いたとしても意識的に用いたとしても、教育者/教育評論家として妥当な行為ではない」というな結論が導かれます。

なお、以上の論証に私の個人の認識は一切含まれていないことを断っておきます。


編集部より:この記事は「マスメディア報道のメソドロジー」2020年1月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はマスメディア報道のメソドロジーをご覧ください。