昨年12月24日で、菅政権発足から100日が経過した。いわゆる「ハネムーン」は、メディアや有権者が発足当初の政権を暖かく見守る期間、と言われている。しかし、コロナ対策が急がれる中で日本社会にその余裕はなく、菅政権には連日国民の厳しい目が注がれている。
9月の政権発足以降様々な「菅義偉」関連本が出版される中、12月にそれぞれ異なる角度から菅首相を描く書籍が出版されたので紹介したい。毎日新聞の元官房長官番・秋山信一記者が論じる「菅義偉とメディア」。そして、読売新聞の政治部による「喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書」である。
1.「菅義偉とメディア」
菅の魅力を評価する一方で、政権に取り込まれていく記者たちの能力不足、大手新聞社政治部の構造的問題、文春を始めとした週刊誌に引き離されていく取材力の差を、読者が意外と思うほど率直に認める。「ネットに随時、情報が流れる時代に他社が数時間後には追いついてくる報道にどれだけの意味があるのだろうか」と他社とのスクープ競争に現役記者として疑問を呈す。特に読み応えがあったのが、東京新聞名物女性記者による長官番記者への批判ツイートを「全くの虚偽」と断じた箇所だ。その後、同記者の主張を支持するネット世論に叩かれた経験も赤裸々に語る。
評者の立場からは、仕えている議員への取材を通して付き合う記者の論理や動き方、彼らの心理状況を知る意味で大変参考になった。
2.「喧嘩の流儀 菅義偉、知られざる履歴書」
例えば、菅が経産政務官だった時代から支える経済産業省出身の門松貴。官房長官時代から真冬の寒い日も変わらずに早朝の散歩に同行する門松を、評者はキャピトル東急前で何度も見かけている。警護官1人が先導するのみで菅と一対一で話をする門松でさえ、求められた事柄以外で菅に直言することが憚られる雰囲気があると言う。口数が少なく感情を顔に出さない菅との距離の取り方には、長年仕える者でも測りかねる独特の間があるのだろう。また、しばしばブレーンとしてメディアに登場する竹中平蔵は、自身が総務大臣時代に副大臣として仕えた菅を「同じ大臣として仕事と分担していたという感じ」と言う。役所内の人事を含め、竹中は菅を信頼して多くの仕事を任せていた。最後に、安倍が退陣の意志を固めながらも副総理の麻生にそのことを打ち明ける以前から、頻繁に顔を合わせ「うすうす勘づいていた」菅の動きなど、官邸内の人間関係を細部まで再現する取材力には驚かされた。
しばしば物事を観察する際に、鳥の目と虫の目が言及される。政治家菅義偉としての生き様と、権力を握るまでの過酷な闘争の内幕を知る上で、これら視点の異なる2冊の本は多くのヒントを読者に与えてくれるに違いない。
小林 武史 国会議員秘書
カイロ・アメリカン大学国際関係論修士過程修了。2005年法大卒(剛柔流空手道部第42代で、第10代菅義偉氏の後輩)。日本貿易振興機構(ジェトロ)を2013年退職。