最近、金とビットコインなどの暗号資産の価格が急上昇している。
金は昨年8月初旬にドル建てで1オンス2000ドルの大台を突破した後、一時調整局面に入って11月末には1800ドルを割り込んだが、12月に入ってから反転上昇に向かい、1月5日には1950ドルまで戻った。円ベースの価格では、為替のドル安で少しインパクトが小さくなったが、それでも1グラム6400円前後で価格が推移している。
一方、暗号資産の代表格のビットコインは、昨年3月初めには1ビットコイン=4000ドル以下にまで下落したが、その後は上昇気流に乗り、12月半ばに20000ドルを突破し、年が明けると上昇のモメンタムをさらに強めて、1月3日には30000ドルを超え、7日時点では37000ドルを超えるに至っている。
このような金やビットコインの急上昇の理由として市場関係者から様々な要因が上げられているが、その中でも新型コロナ対策のために主要国政府が行っている巨額の財政支出と主要国中央銀行による超金融緩和が特に大きく影響している。
新型コロナ対策のために世の中にあふれ出たお金が、株、貴金属、暗号資産などへの投資に向かい、マネーゲームが行われる一方、国の信用だけが頼りの貨幣を中央銀行がどんどんばらまかざるを得ない状況にあるため、ドルなどの主要国通貨に対する信頼に陰りが生じているのだ。
例えて言えば、市場参加者は地平線上に湧いたインフレの雲を見て、これから来るかもしれない嵐に備えて通貨以外のものに資産を移しつつある状況だといえよう。
こうした金等の価格急上昇の中で、主要国の中央銀行、特に基軸通貨ドルの価値の安定を責務の一つとしているアメリカの連邦準備制度(FED)は、心穏やかでないはずだ。
アメリカは世界最大の債務国なので、経済が破綻することなく回っていくためには、中国や日本などの黒字国から投資資金が流入することが必要不可欠だ。しかし、ドルに対する信頼が揺らぎ、ドル安が急速に進行すると、投資資金の流入がストップしてしまう危険性がある。
連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、新型コロナ対策のためには今後ともさらなる金融緩和をする必要に迫られる可能性が強い中で、ドルの急落も避けたい、というところだろう。しかしそうなると目障りなのがいわばドルの信頼度の通信簿の役割をする金価格で、これが上昇し続けているのを何とかしたいと考えるのはある意味で当然のことだろう。
これに関して、最近のYouTubeのインタビュー動画で、元レーガン政権の財務次官補でエコノミストのポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)氏が興味深い話をしていた。彼によれば、連邦準備制度(FED)は、金を扱っているいくつかの主要銀行(Bullion Banks)を使って金の価格が2000ドルを大きく超えないように操作しているそうだ。その手口は、世界の金先物価格のリード役をしているニューヨークの金先物市場(COMEX)で、取引量が少なくなった時間を見計らって大量の空売りを浴びせて価格を急落させるのだそうだ。なお、カラ売りを仕掛けた銀行は価格下落で濡れ手に粟の利益を手にすることは言うまでもない。
クレイグ氏の言うことが本当かどうか、なかなか立証する手立てがないが、金価格の動きを見ると、確かにニューヨーク市場が開く直前の時間(ロンドン市場の後場)ないしニューヨーク市場の開始直後の時間帯に、それまで順調に上昇を続けて来た金価格が崖を落ちるように急落することがたびたび起きている。
(2020年8月31日~9月2日)
(2020年11月25日~27日)
(2021年1月5日~7日)
(上記チャートはいずれもwww.kitco.comによる)
こうした価格の急落後、価格はすぐに元の水準に戻ることもあるが、多くの場合、それまでの上昇のモメンタムが失われて、値動きがしばらく横ばい傾向となることも多い。
このような「売り崩し」はどこの国の金融市場でも典型的な相場操縦として違法な行為だが、もしFEDの意思がそこに介在しているとしたら、規制当局(CFTC〔米国商品先物取引委員会〕)は見てみぬふりをしているのかもしれない。
ここ1か月の金価格の急上昇を見て、今後金の価格が2000ドルを超え、さらなる大きな高みに向けて上昇すると予想する市場関係者は多いが、こうした予想がすんなり実現するかどうか、上記の金先物市場での相場操縦疑惑もあって、私はかなり疑問に思っている。
なにしろ1933年のアメリカでは、通貨の増発を自由に行ってニューディール政策を実施することができるように、ルーズベルト大統領は国民に金の保有を禁じ、国が国民から金を強制的に買い上げ(いわば没収し)て、ドル紙幣を通貨として使用するように強制した歴史があるのだから。
なお、この記事に書かれた見解は情報提供を目的とするものであり、いかなる投資助言を提供するものではなく、また、個別の金融商品、商品先物、暗号資産の購入・売却・保有等を推奨するものでもないことをお断りします。