米民主主義は危機に瀕しているか

長谷川 良

米連邦議会で6日、「大統領選挙は不正だった」として多数のトランプ大統領支持者が建物内に侵入、上院の議長席を占領するなど、一部は暴動化した。最終的には州兵が動員され、4時間後、暴動は鎮圧された。外電によると、警察隊と支持者との衝突で、1人の女性が警察官に撃たれ、病院で死亡したほか、計4人が死亡、14人の警察官が負傷し、52人が拘束された(4人は武器の不法支持、47人は外出禁止違反でそれぞれ拘束された)。なお、デンバー、フェニックス、ソルトレイクシティなど他の都市でも同様の抗議集会が開かれたが、衝突は報じられていない。首都ワシントンDCのバウザー市長は夜間外出禁止令を発令するなど、異常な状況となった。

▲第46代米国大統領に選出されたバイデン氏(バイデン氏の公式フェイスブックから)

連邦議会では同日、昨年11月3日実施された大統領選のバイデン氏勝利を正式に確定する両院合同会議が進行中だった。トランプ氏支持派は「大統領選は不正だった」として抗議集会を開き、トランプ大統領も演説。ただし、支持者の暴動に対しては「暴力は良くない。撤退すべきだ」と呼び掛けた。

上院の共和党代表、ミッチ・マコネル上院院内総務は「無法な者の要求に屈してはならない」と強調し、ペンス副大統領も「上下両院は国民のハウスだ」と述べ、トランプ支持派の議場内侵入を厳しく批判した。

バイデン前副大統領は、「われわれの民主主義が攻撃された。わが国は久しく民主主義の希望と灯だったが、このような暗黒の時を迎え、ショックと悲しみを感じる」と述べている。

以上、ワシントンで6日起きたトランプ支持派の暴動についての外電の内容を簡単にまとめた。

一方、大西洋を越えた欧州でもワシントンでの暴動に少なからずショックを受けている。7日付けの欧州紙は一様に1面トップで報道し、「トランプ派のクーデター」といった見出しを付けるメディアも出てきた。

ジョッセプ・ボレル欧州連合(EU)外務・安全保障政策上級代表(外相に相当)はツイッターで、「米国の民主主義、機関、法治国家への例のない攻撃だ。(連邦議会での暴動は)米国ではない。11月3日の大統領選の結果を尊重すべきだ」と述べている。

EU欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、「私は米国の機関、民主主義の強さを信じている。バイデン氏が大統領選で勝利したのだ」と強調し、シャルル・ミシェルEU大統領は、「米国議会は民主主義のテンプルだ。EUは米国がバイデン氏に平和的に権限が移譲されることを信頼している」と述べている。

フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相は、「米国の民主主義への深刻な攻撃だ。米国民の選挙結果を尊重しなければならない」と指摘。マクロン大統領はツイッターで、「米国の民主主義の強さを信頼している。首都ワシントンで起きたことは米国らしくない」と述べている。

英国のジョンソン首相は、「恥ずかしい状況だ」と述べ、ドイツのマース外相は、「トランプ氏とその支持者は米国有権者の決定を受け入れ、民主主義を足で蹴っ飛ばすような蛮行は止めるべきだ」と注文を付けている、といった具合だ。

以上、欧州の政治家は一様に「米国の民主主義が危機に直面している」と懸念を表明しているわけだ。ただし、トランプ氏らが主張する大統領戦の不正問題については全く言及せずに、「大統領選の結果を受け入れるべきだ」とアピールしているのみである。

欧州の政治家の“トランプ嫌い”は今に始まったことではない。彼らの主張の多くは米国内のリベラルメディアの反トランプ論調と同じだ。トランプ政権の過去4年間、最初から最後まで批判に終始し、大統領の資格に疑問を呈してきたリベラルメディアの論調とほぼ一致している。唯一、ブリュッセルから常に批判にさらされてきたハンガリーのオルバン政権だけはトランプ政権に理解を示してきた経緯がある。

欧州の政治家にとって、6日の連邦議会での騒動は「トランプ政権とその支持者は民主主義を破壊している」という主張を裏付ける格好の材料となったわけだ。換言すれば、トランプ支持者は反トランプ派に決定的な口実を与えてしまったのだ。反トランプ派はその意味で一枚上手だ。

ちなみに、米紙ワシントン・タイムズによると、極左組織アンティファのメンバーがトランプ大統領支持者を装って抗議デモにまぎれ込み、連邦議会に乱入していたことが6日、顔認証から明らかになったという。(※編集部追記: 後に同紙が記事を誤りと認めて取り消し)

ところで、「米国の民主主義が危機」という状況は反トランプ派にもその責任があることは言うまでもない。反トランプ派の先頭を走ってきたCNNはトランプ政権の過去4年間、客観的な報道というメディアの役割を放棄し、民主党の機関紙メディアとなってしまった。

ペンス副大統領(共和党)は「暴力は決して勝利できない」と指摘し、トランプ氏支持派の今回の暴動を批判した。それは正論だ。同時に、看過できないことは、トランプ氏に政権を奪われた過去4年間、反トランプで終始したリベラルメディアの常軌を逸した反トランプ報道にも大きな責任があることだ。米国社会を分裂させた張本人だからだ(「メディアの常軌逸した反トランプ報道」2020年11月9日参考)。

ワシントン・タイムズによれば、▲ミシガン州の67郡を含む接戦州の何10もの郡で、有権者登録数が有権者の人口を上回っていた、▲有権者登録名簿に故人や州外への転居者、外国人など投票資格のない人が多数含まれていた、▲民主党を支持するドミニオン社の集計システムを使用したミシガン州のある郡では約6000票がトランプ氏からバイデン氏に不正に切り替えられた、▲ペンシルベニア州では、州務長官と州最高裁が州法に違反し、選挙のわずか数週間前に、署名確認義務を事実上撤廃したこと――など、多くの不正疑惑が指摘されてきたが、米のリベラルメディアは完全にそれらを無視してきた。それはトランプ氏に投票した7000万人有権者の権利を蹂躙することを意味する。不正があれば、それを調査し、改善することが民主主義の正道のはずだ。米国のリベラルなメディアは将来に大きな禍根を残した。

米議会は7日、バイデン氏を正式に次期大統領として認定した。バイデン氏が米国国民全ての大統領となることを期待する。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。