経営者の仕事は賭けである

選択は賭けである。企業経営において、より根源的には人が生きるなかで、複数の選択肢のなかから、一つの具体的な行動が選択されているが、程度の差こそあれ、その選択には賭けの要素がつきまとう。確実性のもとで、選択が論理的に一義的に決まることは稀だからである。

賭けとはいっても、それが賭けとして強く意識されることは滅多にない。過去の経験に基づいて推論を行うことにより、十分に合理的な解に到達し得るからである。即ち、不確実性は不可避でも、それは通常は一定の蓋然性のなかに制御されているのである。

逆に、不確実性を合理的に制御できているからこそ、どの局面でも適切な決定をすることで人は生きているのだし、企業などの人間の組織が機能し得るのも、合理的推論のうえに議論がなされ、合意が形成されて、組織としての意思決定が可能になっているからである。

しかし、決定があるということは、そこには必ず不確実性がある。確実性のもとでの推論は答えが一つしかなく、人が決定するまでもなく先に解は決まっている。不確実だからこそ決定があるのであって、決定には必ず賭けの要素を伴う。不確実性が大きくなれば、合理的推論の精度が下がり、一定の範囲を超えれば、合理性を超えたところでの決定になる。そうなれば、むしろ決断という用語のほうが相応しいわけである。

組織の意思決定のあり方を定めるとき、小さな賭け、即ち小さな不確実性のもとでの決定は下部へ移譲され、逆に、大きな賭け、即ち大きな不確実性のもとでの決断といえるような賭けは最上部にとどめられる。つまり、決断こそ経営者の仕事なのである。下部組織で決められないことは、経営者によって決められるほかない。逆に、下部で合理的に決められることは、極力、下部に権限移譲することで、経営者が専管する責任範囲を明確にしなければならない。それが経営である。

では、経営者は何を決断するのか。それは革新である。革新は、過去の延長にはなく、過去からの断絶であり、未来への飛躍だから、論理的に決まることではなく、究極の不確実性のもとでの決断になるほかない。そして、革新こそ成長の原動力だから、経営者の仕事は決断によって革新を主導すること、成長を実現すること、その一点に尽きるわけである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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