携帯電話料金引き下げ政策は正しかったのか?

政権が優先度を高めて進めてきた携帯電話料金の引き下げは確かにここにきてぐっと下がってきており、表面上、政権主導の引き下げ計画は成功したように見えます。しかし、商品やサービスの価格を政府が論理的でそれをするに足る十分な理由が伴わなくても介入することが正しいのか、じっくり考える必要がありそうです。

(写真AC:編集部)

ツィッター社がトランプ大統領のアカウントを永久追放、フェイスブック社も無期限の停止をしています。これに対してかみついたのが欧州の両輪、ドイツとフランスであります。メルケル首相は表現の自由を鑑みると民間の企業が独断でそんなことを決めてよいのかと声高に述べています。守られている権利を取り上げたというわけです。

ならばその逆もしかりで政府が民間企業の設定価格を引き下げさせることが政策的に正しいのか、ともいえるはずです。特に日本は統制経済ではなく、自由経済であり、需要と供給に基づいて価格は決まるものです。それに対して政府部門が口を出すのは中国と同じになってしまわないでしょうか?

今回の携帯電話の引き下げに関してあまり報道されていない負の部分を見てみます。

1 この引き下げ競争で誰が得するのか?答えは明白で既存大手3社であり、寡占化がより進みます。

2 今回auが2480円プランを出したことで次の注目は楽天でありますが、体力的に勝負できるプランを提示できるのでしょうか?同じ金額なら安定感がある大手3社の方が有利です。楽天が参入する際にたしかauの社長が敵対心むき出しだった記憶があるのですが、ただでさえ苦労するところに価格引き下げを強要した政府の政策で楽天の携帯電話部門の経営を非常に苦しいものにするでしょう。ちなみに楽天の携帯事業は免許の関係で出口がありません。つまり事業売却は不可であります。

3 もっと困るのが格安携帯会社(MVNO)業者です。大手と価格的に差が狭まり、メリットが少なくなり、MVNOから大手3社に顧客流出が起き始めています。

4 さらに困るのが街中の携帯ショップ。ドコモの新プラン、「アハモ」はネットでの注文が原則ですので携帯ショップに行く必要がないのです。他の二社も同様の手法で新プランを発表しているわけで政府主導の政策で全国で8000店ある携帯ショップの経営を締め上げ、雇用を喪失させる可能性があります。

5 携帯料金が下がってもそれが消費には向かわないという調査があります。(そもそもそれが政府の一つの目的だったと認識しています。)

6 消費者物価指数にはマイナス要因となり、ディスインフレをサポートします。

日本の携帯は世界基準に比べ高い、とされていましたが、どちらかと言えば欧州の相場との比較では高いのですが、世界主要国と比して突出しているわけではありません。むしろ、消費者が選んだという部分を軽視しているのではないでしょうか?格安携帯はいくらでもあるのです。

経済と経営の世界に官が参画できる余地は以前と比べ非常に狭くなってきています。むしろ官が強権力で関与すると微妙なバランスの上に立っていたものが崩れ、余計なしわ寄せが生じることになります。かつての東亜国内航空の再編の件をご記憶の方もあるでしょう。あれは余計な政府の関与でした。今回の場合も官が関与したことで大手3社が不動の地位を築く可能性が高まったとみています。

個人的には大手3社と若干の格安携帯の選択肢があれば今の日本の市場は結果としては概ね良いとみています。日本よりはるかに市場が大きいアメリカや中国ですら携帯会社は3社程度です。時として日本は市場参入者が多すぎてレッドオーシャン化し不毛な価格競争を展開し、企業が適正な利潤を上げられず、研究開発で世界の遅れをとったことがしばしばあります。

皆さんの好きな話題である自動車の例でみるとここにきてアップルがかなり早い時期にEVを出すのではないかと噂されています。一部には9月とされますが、それはないと思います。が、同社がEVを出せるのは今までに既に自動車関連の研究をずっと進めてきており、同社特有の製造は外注という仕組みを取ることで極めて早い事業展開が可能になっているのです。同様にソニーもどこまで本気かわかりませんが、やる気があれば既に開発済みのEVに磨きをかけて売り出すでしょう。

それは何を意味しているかと言えばアップルが高い技術力を確保するための投資を継続的にずっと行ってきていたという体力の違いであります。既存の日本の主要自動車メーカー7社は自動車の電子化への注力が遅れた可能性はあります。特に日産はお家騒動で経営が急速に悪化したこともあり、研究開発費でそれなりに確保できているのはトヨタとホンダぐらいでしょうか?あとはローカルメーカーに成り下がる可能性が出てきています。

GAFAの存在について是非論が出ています。それは極端な例にしろ、ここまで技術が進化してくるとどれだけの経営体力を持って製品やサービスを開発できるかにかかってきており、圧倒的な市場支配力がないとアウトだということなのです。サムスンの強さの一つも国策的に一社化したからなのです。日本でつぶし合いをしている間にまた黒船がやってくる、いや、今回は中国から赤船がやってくるかもしれないと考えれば経営体力をつけることが本来であれば政府として後押しすべきことではなかったのかと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月13日の記事より転載させていただきました。

会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。