きのうの緊急事態宣言の記者会見での菅首相の発言が話題になっているが、「国民皆保険」の部分は単なる言い間違いで、それを見直すなどとは言っていない。ハフィントンポストの書き起こしによると、問題の部分は次のようになっている。
神保:日本は人口あたりの病床数は世界一多い国ですよね。感染者数はアメリカの100分の1くらい。それが医療が逼迫して、緊急事態を迎えているという状況の総理の説明が、単に医療の体制が違うということで、果たしていいのでしょうか。[…]医療法によって病床の転換を病院にお願いするしかない状況ですが、医療法の改正は政府のアジェンダに入ってないのでしょうか。
菅:(特措法は)法律改正を行うわけですから、医療法についても今のままでいいのかどうか。国民皆保険、そして多くの皆さんが診察を受けられる今の仕組みを続けて行く中で、今回のコロナがあって、そうしたことも含めて、もう一度検証していく必要はあると思っています。それによって必要であれば、改正するのは当然のことだと思います。
問答がすれ違っている。神保氏は「医療法の改正」について質問したのに、首相は無関係な国民皆保険の話をしている。これは質問の意味がわからなかったものと思われる。これはアゴラでも昨年から何度も書いているように、医療法では行政が病院に指示できないという欠陥である。
特措法を改正して行政の病院への「指示」権限を
感染症指定医療機関がコロナ軽症患者であふれる一方、図のように中小病院の18%しかコロナ患者を受け入れていない。これは都道府県知事が「受け入れろ」と病院に指示できないからだ。
病院の規模別のコロナ患者受け入れ数(厚生労働省)
これは特措法改正で解決できる。第31条の「都道府県知事は、当該患者等に対する医療を行うよう要請することができる」という規定を改正して「指示」とし、それに従わない場合は保険医療機関の指定を取り消すなどの罰則を設ければいいのだ。
改正が政治的に困難なら、運用で是正できる。特措法第45条の飲食店などに対する「要請」をこれだけ乱発しているのに、第31条はこれまで一度も発動したことがない。罰則なしでも事実上の強制力があるのだから、自治体は病床のあいている病院に、コロナ軽症患者を受け入れるよう要請(事実上の指示)してはどうか。
それと同時に、指定病院にコロナ重症患者を集約し、一般病院と役割分担すべきだ。東京都は都立広尾病院など三つの病院をコロナ専門病院にするが、他の自治体も同じ措置を取れば、医療資源の偏在は解決できる。重症患者は全国で900人だが、人工呼吸器は全国で4万5000台、ICUベッドは1万床以上あるからだ。
この場合も一般病院が(コロナ以外の)患者を受け入れる必要がある。今は医療資源の配分を保健所がお願いベースでやっているが、特措法で法的根拠をもたせることが望ましい。長期的には医療法を改正し、行政の病院に対する指示の権限を明文化する必要がある。
ところが菅首相は、そういう問題が存在することも認識していないようにみえる。飲食店に罰則を設け、入院を拒否する患者に刑事罰を課すことまで検討しているのに、病院には要請しかできない医療体制では、医療危機は乗り越えられない。