ロックダウンが「復活祭」まで続く時

ドイツのメルケル首相は与党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)院内会合で、「現在のロックダウンは復活祭(今年は4月4日)前まで継続せざるを得ないかもしれない」と語っていたという。同国大衆紙ビルトが12日、報じたものだ。

▲ロックダウンの延長を考えるメルケル首相(ドイツ連邦首相府公式サイトから)

▲ロックダウンの延長を考えるメルケル首相(ドイツ連邦首相府公式サイトから)

もちろんメルケル首相が突然ロックダウン(都市封鎖)期限の延長を語ったわけではない。「英国発の新型コロナウイルス変異種の感染がイースターまで抑えることができず、感染が拡散している場合」という前提付きだ。

現行のロックダウンは一応今月末で終わるが、英国発の変異種が抑えられなかった場合、「その後、8週から10週、ロックダウンは続く」というわけだ。ドイツ国民がメルケル首相の与党内での発言内容を聞いたならば、驚くというより、絶望するのではないか。コロナ規制反対派ならさっそく抗議デモを計画するなど、ドイツ国民の間で少なからずの動揺が予想される。

ドイツの新型コロナの累計感染者数は12日現在約195万人で、死者数は4万1917人だ、同国国立感染症研究所「ロベルト・コッホ研究所」(RKI)によると、今月8日には新規感染者数が3万1849人、死者数は1188人と最多を記録した。同国は今月末まで第2次ロックダウンを実施中だが、感染抑制の効果はまだ見られない。その理由の一つとして、英国と南アフリカから入った感染力が従来のウイルスより強い新型コロナウイルスの変異種が広がってきたからと受け取られている。同国南部バイエルン州では今月11日から公共運輸機関利用者やスーパーなど店舗に入るためにはFFP2のマスク着用を義務化されたばかりだ。FFP2マスクとは、「直径0.3ミクロン以上の微粒子を95%カットでき、 抗菌性と防臭効果を備えている」という。高品質のマスクだが、通常のマスクより高価だ。

ロックダウン中のドイツでは、生活必需品を売っているスーパーや銀行など日常生活で必要な職種以外は閉鎖されている。もちろん、レストランや喫茶店は既に閉鎖、学校も閉鎖されている。1月10日までだったロックダウン期限は今月31日まで延長されたばかりだ。それが更に4月初めまで継続されるとしたら、ドイツの国民経済への影響は図りしれないが、国民のコロナ疲れ現象はさらに深刻となることは間違いないだろう。

ドイツの場合、苦い経験がある。昨年8月29日から30日にかけ、メルケル政権が施行した一連の新型コロナウイルス関連規制法に反対する抗議デモ集会が行われ、警察側の発表によると、総数4万人が複数の抗議デモに参加した。ベルリン州警察は数千人の警察隊を動員し、市内で広範囲に警戒警備・交通規制を実施した。

それだけではない。極右過激派が昨年8月29日、ベルリンの国会議事堂建物(連邦議会がある)の階段に登り、ナチス・ドイツ時代のドイツ帝国議会の旗を振り、過激な政治的プロパガンダを行ったことから、警察隊が介入するなど、衝突も生じた。

ロックダウンの期限が1月31日から4月1日まで継続された場合を想像してほしい。ドイツ各地で反コロナ規制抗議デモが起きるだろう。米首都ワシントンDCの連邦議会侵入事件(1月6日)のような事件になるかもしれない。ベルリン警察は今月7日、国会議事堂周辺の警備強化に乗り出す計画を明らかにした。米国議会の騒動の二の舞になっては大変というわけだ。

ドイツを含む欧州では昨年、「12月のクリスマス祝日を家族と共に祝うために」という理由もあって、多くの国民はコロナ規制を守ってきた。なのに今、「イースターまで」といわれても簡単ではないだろう。クリスマスと復活祭の違いではない。ロックダウンの期限が長期化する点だ。あと10週以上、この規制状況が続くとなれば、繰返すが、国民の間には、自暴自棄になったり絶望的な思いに陥る人も出てくるだろう。コロナ感染防止と共に、国民の精神的管理が更に現実的な課題として浮かび上がってくることは必至だ。

メルケル首相のコロナ対策に最も大きな影響を与えているウイルス学者はドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)だ。ドロステン教授は、「メルケル首相は新型コロナ感染問題を理解できる数少ない政治家だ」と、理論物理学を研究していたメルケル首相のウイルス感染に関する理解力を評価してきた。ただし、ドロステン教授の新型コロナ対策には国民の間に反発もある。

同教授は、「自分はウイルスの世界の話しかしない。コロナウイルスの感染問題では現時点では厳しいロックダウンを継続する以外に道はない」と指摘し、学校の閉鎖も要求してきた。教授曰く、「児童、子供もウイルスを持ち運び、感染を拡散する危険性がある」として、学校の閉鎖を強く要求する。英国発の変異種については「感染力は通常より強いことは明らかだ」と強調する一方、ワクチン接種への影響については「現時点では懸念する必要はない」という。

「クリスマスの祝日」のためにコロナ規制を甘受してきたドイツ国民が、今度は「イースター」まで同じようにコロナ規制を受け入れるだろうか。ドイツもコロナ・ワクチンの接種テンポを急ぐべきだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。