朝刊各紙は14日、米下院におけるトランプ大統領の弾劾訴追可決を報じた。産経も黒瀬悦成ワシントン特派員の記事に「トランプ米大統領、2回目の弾劾訴追 史上初めて」との見出しを付けた。この記事を順を追って要約しつつ、事の経過を見てみたい。
記事はまず、「大統領が支持勢力に『反乱を扇動』して連邦議会議事堂を襲撃・占拠させた」ことが弾劾訴追理由であり、トランプは「19年にもウクライナ疑惑で弾劾訴追されており、米史上初めて在任中に2回弾劾訴追された大統領」だ、とする。
次に「(下院の)採決は賛成232、反対197」で、共和党から「10人が賛成に回り、4人が棄権した」とし、「決議は上院に送られ、・・弾劾裁判が開かれるが」、共和党上院院内総務は「任期中に裁判を終結させることは困難」で、「次期大統領が就任する20日以降に裁判を開始する」と述べたと書く。
続けて「上院(定数100)の弾劾裁判で出席議員の3分の2が賛成すれば、トランプ氏は有罪となる」ので、20日以降の両党議席50対50のうち「共和党から何人が賛成に回るかが大きな注目点」とし、「有罪となった場合、・・トランプ氏は将来、公職に就く資格が剥奪される」とする。
次に「ワシントンでは、武装したトランプ氏の支持勢力による抗議行動を警戒して12日夜から厳戒態勢が敷かれ」、就任式当日は「約2万人の州兵部隊が市内に投入される」とし、最後にトランプが13日、「暴力や法律違反、破壊行為をしないよう求める」声明を発し、「平静を呼びかけた」と結ばれる。
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一報だから仕方あるまいが、産経ならもう少し深く掘り下げて欲しい点がいくつかある。一つはウクライナ疑惑による最初の弾劾について。共和党が上院での証人尋問を拒否してトランプ氏は無罪となり、逆に、オバマ主導の民主党一派がFBIを使嗾してでっち上げた「オバマゲート事件」とトランプ氏が主張。この先は捜査が進む形勢だったことだ。
19年春の米朝シンガポール会談の当日、弾劾裁判でトランプ元側近の聴取が行われたことや、それにも関らずトランプが少しの動揺も見せず金正恩に対処していたのは今も記憶に鮮やかだ。今日の正恩の凋落は、紛れもなくこの交渉失敗が引き金になった。
二つ目は下院に提出された決議書の記述が余りに短いことだ。決議書はほんの3,300字ほどの短いもので、ネットで誰でも読むことができる。歴史研究などに一次資料が重要なのと同じく、裁判では訴状の事実関係が肝心要であることは素人の筆者にも判る。で、読んでみた。
決議書は冒頭で憲法の当該条文の規定を述べる。すなわち、「下院が唯一の弾劾権を有する」こと、そして大統領は「反逆罪、賄賂、またはその他の重大な犯罪と過失(high Crimes and Misdemeanors)による弾劾および有罪判決によって当局から解任される」ことだ。
次に、今回トランプが、職務を忠実に遂行し、能力の及ぶ限り憲法を維持し、保護し、擁護するという、そして法律が忠実に執行されるように注意するという憲法上の義務に違反し、「米国政府に対する暴力を故意に扇動する(willfully inciting)ことによって、重大な犯罪と過失に関与した」と、訴追理由を述べる。
続いて1月6日の出来事に触れ、トランプは「合同会議が始まる少し前に、トランプ大統領は近くの彼の政治的支持者の群衆に話しかけた。そこで彼は、『我々はこの選挙に勝った、地滑り的勝利だ』という誤った主張を繰り返した(reiterated false claims)」とする。
そして、「彼はまた議事堂での切迫した無法行為(imminent lawless action)を奨励(encourage)し、そして結果が予見可能な(foreseeably resulted)発言を故意に行った」とし、「トランプに扇動された暴徒が国会議事堂を不法に侵害した」と主張する。
さらに6日のトランプの行動は、「20年の大統領選挙の結果認証を覆し、妨害するという彼のそれ以前の取り組みと一致する」として、2日のジョージア州務長官への電話で「結果を覆すのに十分な票を『見つける』よう促して、脅したことが含まれる」と主張する。
続けて、「これらすべてにおいてトランプは、米国とその政府機関の安全を深刻に危険に晒し」、「民主主義体制の完全性を脅かし、平和的な政権交代を妨害し、政府の調整部門を危うくし」、それによって「大統領としての彼の信頼を裏切って、合衆国の人々を明白に毀損した」とする。
それゆえ、「トランプが政権を維持することを許可された場合、国家安全保障、民主主義、および憲法に対する脅威であり続ける」ので、「米国の下で名誉、信頼、または利益のある役職を保持・享受することの、弾劾、裁判、解任、および失格は当然である」と結ばれている。
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反トランプ一色の米国のメインストリームメディアと、その記事を翻訳コピペして報じる日本メディアの情報だけを信じる向きには、ストンと腑に落ちる内容だろう。トランプ嫌いの米国人の知人はFacebook への投稿でいつも「Tdump」と書く。
だが、今やビッグテックと呼ばれるGAFAやツイッターに締め出されたトランプ自身やフリン将軍やパウエルやウッドら弁護士の発言とEpoch timesなど保守メディの画像と記事、そして今も見られるFox news、The Hillやヘリテージ財団のDaily Signalなどの情報は、必ずしも決議書の主張とは一致しない。
それらに依れば、トランプは「我々が勝った」と確かに繰り返した。「選挙が盗まれた」と言い、「抗議しよう」と言った。「ペンシルベニア通りを進もう」とも言った。が、議事堂に不法侵入して、議事を妨害せよなどとは言っていないようだ(筆者自身は演説全文を未読)。
決議書は侵入が「結果が予見可能」だったとし、産経も黒瀬記者の感想か現地紙の翻訳か知らぬが「武装したトランプ氏の支持勢力」などと書く。だが、従来、トランプ支持者のデモは平和的とされていたし、議事堂のガードもそれゆえに少なかったとの報道もある。
そして「トランプが政権を維持することを許可された場合、国家安全保障、民主主義、および憲法に対する脅威であり続ける」と決議書に書くペロシ民主党下院は異常ではないのか。トランプは20日に辞めるのだ。何時から米国は辞めた大統領を弾劾訴追する国になったか。韓国でもあるまいし。
最後まで敗北宣言をしなかったトランプよりも、この期に及んで弾劾訴追を進める民主党、自由な言論空間を閉ざしたビッグテック、そして偏向報道に終始したメインストリームメディアに、むしろ今日の米国が抱える深刻な病を見る思いがする。
共和党上院の常識を信じたい。2日の電話事件のことは先日書いた。