厚労省はなぜ人口動態統計を隠すのか

池田 信夫

厚生労働省は、2020年の人口動態統計の年間推計を発表しないことを決めた。厚労省ホームページによるとその理由は、死亡数が1~10月の累計で減少したことなどから、「年間推計を機械的に算出した場合には、算出した推計値が実態と乖離することが想定されるため」だという。

昨年10月までの死亡数は約113万人で、2019年より約1万4000人(1.2%)少なく、このペースだと通年の死亡数は1万6000人以上減ったと推定される。このため人口動態でみても、毎年減っていた人口が下げ止まった。

日本では高齢化で毎年、死亡数が増えているので、平年と比べた「超過死亡」ではマイナス2万人程度だろう。国立感染症研究所の超過死亡についての統計も、昨年12月15日の月報を最後に途絶しているが、ここでも2020年の超過死亡はマイナスになっている。

この最大の原因は、日本経済新聞によると、肺炎(コロナや誤嚥性を除く)の死者が2019年より(7月までに)9100人以上も減ったことだ。インフルエンザを含む呼吸器系疾患は約1万3000人減少し、コロナで増えた死者を大幅に上回った。

日本経済新聞より

これはコロナを警戒して、人々が自粛した影響が大きいと思われる。ヨーロッパでは超過死亡は最大150%なので、日本のコロナ対策は成功したのだ。厚労省が統計を隠すのは、緊急事態宣言などの対策が過剰だと批判されることを恐れているのだろうが、都合の悪い数字を隠すのでは中国と同じだ。

むしろ日本のコロナ感染はヨーロッパとは違う現象だということを政府やマスコミが認識し、過剰に恐怖をあおるのをやめれば、パニックは収まる。正しい数字で現実を認識することが、正しい感染症対策の第一歩である。

【追記】人口動態統計の確定数は9月に出る予定だが、それでは感染症対策などの役には立たない。そもそもこの数字が「実態」と違うという根拠がない。国立感染症研究所の研究員が英文で出したプレプリントでも「日本では超過死亡が出なかった」と報告されている。次の図がWSJの出した各国の超過死亡で、日本の被害は世界最少である。