コロナ自粛でテレワークを訴えるなら遠隔医療も推進せよ

中田 智之

緊急事態宣言が発令され、テレワークで出勤者7割の削減が政府から求められました。自分のクリニックでもなにかできることはないかと考えましたが、残念ながら医療機関においてテレワークを導入するのは難しそうです。

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これは新型コロナ第1波の頃検討されたオンライン初診に関して、医師会が難色を示したためです。今年3月頃には遠隔医療解禁に関して大いに盛り上がりましたが、2020年4月10日の中央社会保障医療協議会総会にてオンライン歯科初診は「緊急事態宣言下にかかりつけ歯科医において処方箋を書く」だけに矮小化され、急速に下火になったという経緯があります。

その処方箋にしても、薬局にFAXで送るなどといった前時代的で煩雑な手続きを求められたので、結局実施する医療機関は少なかったのではないでしょうか。

(参考)中央社会保険医療協議会総会(第454回)議事次第 ー 厚生労働省(2020年4月10日)

(参考)中央社会保険医療協議会 総会 第456回議事録 ー 厚生労働省(2020年4月24日)

(関連)歯科遠隔初診が本格始動しないうちに緊急事態が終わってしまう件 – アゴラ拙稿 (2020年5月23日)

歯科遠隔初診に限って議事録を確認すると、「一度も見たこともない口腔内状態に対して診断が難しい」「電話による受診でドクターショッピングが加速する」といった懸念があがっていますが、それらは確かにあると思います。

しかしデジタルツールを使用すれば、口腔内の視診は、ある程度できます。対面初診をしても手術歴やアレルギーは受診拒否や生命保険料率増加等を恐れて隠蔽されることが多く、慎重に聴取する必要があるのは変わりません。対面であれば見破ることができるなどというのは、科学的な態度でしょうか。

確かに遠隔初診を保険適応する場合、高いハードルを求めるのは一理あります。それでは保険外診療であればオンライン初診はかまわないのでしょうか。

医師法第20条は,「医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付してはならない(一部中略)」としています。デジタルツールによる画像による視診を「診察」に含めるかはグレーゾーンなので、行政は常に違法認定できる権限を持っています

これでは医療機関としては慎重にならざるを得ず、デジタルツールやプラットフォームの開発も停滞します。

既にほとんど全てが保険外治療である矯正歯科の分野では、初回相談や経過チェックの部分でオンライン診療を導入する実例がありますが、幅広く浸透しないのは法的なリスクを感じるからです。

では議事録の通り、「電話等で聞いただけではかなり限界がある」のでしょうか。わたしはたった10人前後の協議会でこれを結論付けるのは、市場軽視的で、国民の利益になる多くの可能性を奪っていると感じます。

例えば私は最近、夜中に子供の具合が悪くなり、#7119の救急安心センターを利用しましたが、ほとんど受診したのと同じレベルの具体的なアドバイスがもらえました。もしこれがなければ夜間休日診療をうけるために、深夜に車を飛ばして5駅先の病院にかけこまなければなりません。

歯科においても、どうしても来院できない場合の対応として、患部を冷やせばよいのか、抜けそうな乳歯はそのままでよいのか程度であれば、それなりに状況は限定されるものの、必ずしも対面初診でなくとも提供できる情報等はあると感じています。

このような病院に行くべきかどうかという受診勧奨や、朝を迎えるまでの療養指導の部分だけでも、大きな価値があると思います。

さらに対応可能な部分を広げるのがデジタルツールです。歯科では、子供が唇を切ったなどといったごく軽い外傷などに関して、スマートフォンでの撮影などで対応できる部分は十分あるのではないでしょうか。

現在は#7119は無料の公営サービスですが、民間で同様のビジネスが発展しないのは、「受診勧奨の保険適用外」、「無診療治療等の禁止」、「医療機関の斡旋紹介の禁止」等の規制が理由です。

確かに規制を緩和することで様々な問題も予想されるため、監督省庁としてはパンドラの箱は開けたくないかもしれません。しかし、いつまでも従来通りのやり方を守り続けることで、最大の国家支出の一角である医療を維持していくことができるでしょうか。

このような受診勧奨部分のオンライン対応を拡充して、医療へのアクセシビリティを高めておくことは、現状の皆保険制度における医療へのフリーアクセスを維持したまま、過剰な受診による医療リソースの圧迫を抑制することにつながるではないかと考えております。