ドイツ与党CDUの新党首にラシェット氏

ドイツの与党「キリスト教民主同盟」(CDU)の第33回党大会は16日午前、昨年2月に党首のポストを辞任表明したクランプカレンバウアー氏(現国防相)の後任選挙を実施し、新党首にドイツの最大州ノルトライン・ウエストファーレン州のアルミン・ラシェット首相(59)を選出した。

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CDUの新党首に選出されたラシェット州首相(CDU公式サイトから、2021年1月16日)

党大会は15日夜(現地時間)、首都ベルリンで2日間の日程でリモート形式で開催された。党首選(代議員1001人)にはメルツ元下院院内総務(65)、ラシェット州首相(59)、そしてレトゲン元環境相(55)の3人が出馬。いずれも男性候補者で、3候補者ともノルトライン・ウエストファーレン州出身者だ。ちなみに、同州の代議員数は298人で全体の3分のⅠを占める大票田だ。

第1回投票では、メルツ氏が385票を獲得してトップ、ラシェット首相は380票、そしてレトゲン元環境相は224票だった。当選に必要な過半数を獲得した候補者がなかったため、メルツ氏とラシェット首相の上位2候補者による決選投票が行われ、ラシェット首相が521票でメルツ氏466票を逆転して選出された。

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ラシェット首相はメルケル首相の路線支持者で、メルケル首相と同じように親中派で知られている政治家だ。一方、メルツ氏はメルケル首相の政治ライバルで、メルケル政権下で傾斜した中道な穏健路線を批判し、CDUの保守路線への回帰を訴えてきた。

党大会では候補者の基調演説後の質問コーナーでラシェット首相を支援するシュバーン保健相がオンラインの質問者の1人として登場し、同首相を応援するなど、フェアな党首選から逸脱するシーンがみられた。

問題は、新党首が即首相候補になるかは不確かなことだ。CDU党関係者は「先ず新党首を選出し、4月の復活祭後、姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)と協議して今年9月に実施予定の連邦議会選の統一首相候補者を決定する運びとなるだろう」という。

CDUは本来、党首は即首相候補者と見なされてきた。メルケル首相も「首相と党首を分割することは理想的ではない」とこれまでは主張してきたが、2018年10月、メルケル首相は突然、党首を辞任し、首相職に専心すると宣言した。その背景には、CDU内の路線対立にエネルギーを費やすことを避け、2021年まで首相職に専心したいという思いがあったからだ、といわれている。

党首選でメルツ氏が第1回投票でトップに躍進、健闘したことで、CDUがメルケル首相路線支持者とCDUの改革を主張するメルツ派で2分していることが改めて明らかになった。そのため、連邦議会選ではCDUとCSUの首相統一候補者にバイエルン州のCSUのゼーダー党首を担ぎ出す可能性も出てきた。ゼーダー党首は新型コロナウイルスの感染対策で積極的な対応が評価されるなど、国民の間で人気が高まっている。

メルケル首相は自身の後継者としてザールライン州首相だったクランプカレンバウアー氏を幹事長に推し、その後、党首に選出されたが、同氏は昨年2月、党内の支持が得られないとして党首ポストの辞任を表明した経緯がある。

CDU内で路線対立が表面化した直接の原因には、①2015年の難民・移民の大量殺到に対するメルケル首相の難民歓迎政策、②ドイツ・ファーストを標榜する「ドイツのための選択肢」(AfD)の急台頭の2点が考えられる。100万人を超える中東・北アフリカからの難民の殺到に対し、ドイツ国民から強い抵抗が出てきたが、メルケル首相は難民受け入れ政策を堅持。CDU内でも国境警備の強化などの強硬政策を主張する声が高まっていった。CDU内の路線対立は、その後の連邦議会選、欧州議会選、州議会選で得票率の減少という結果をもたらした。

ラシェット新党首は当選後、党員に結束と連帯を訴えたが、メルケル首相の路線継承者と受け取られているだけに、党内の刷新を訴えるメルツ派から抵抗が強まることが予想される。

ドイツは目下、新型コロナウイルスの感染防止のためにロックダウン(都市封鎖)中だ。国民はコロナ疲れもあってポスト・メルケル時代の幕開けとなるCDUの新党首選出への関心は最後まで高まらずに終わった。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。