「ロシア・トゥデイ(RT)」愛読者はワクチン接種を避ける?

私的なことで恐縮だが、ウィーン市が「新型コロナウイルスへのワクチン接種を希望する市民はオンラインで予約を」というので、当方も先日、早速ワクチン接種を希望するサイトを開けてオンラインで登録したばかりだ。いつ、どこで接種されるかは後日連絡があるはずだが、オーストリア国営放送のHPによると、既に数十万人の国民が予約したというから、実際にワクチン接種を受けるまでかなり待たされるはずだ。

Bill Oxford / iStock)

ところで、ワクチン接種を希望するウィーン市民が予約前にロシア官製メディアのニュース専門局「ロシア・トゥデイ」(RT)のホームページを開けて記事を読んだとすれば、ワクチン接種を控えるかもしれない。なぜならば、RTでは米製薬大手ファイザーと独バイオ医薬品企業ビオンテックが共同開発したワクチン(BNT162b2)を摂取した後、「副作用が出た」、時には「死んだ」人が出たといったネガティブな記事が溢れているからだ。「米独製ワクチンを接種して顔面麻痺になった」といった怖いニュースを聞けば、神経の太いRT愛読者でもワクチン接種を考え直すだろう。

それでは「なぜRTは欧米諸国でのワクチン接種での不祥事やネガティブな記事だけを熱心に報じるのか」だ。以下、読者の参考のためにRTの記事を2、3紹介する。どうか深刻に受け取らないでほしい。繰り返すが、RTはフェイク情報で有名なモスクワのメディアの一つで、ロシアのプーチン大統領を支援するメディアだ。

①イスラエルでワクチンを接種した患者が急死した。75歳の男性が昨年12月28日、ワクチンを接種し、自宅に戻った直後、心臓発作で亡くなった。イスラエル保健省は心臓発作とワクチン接種との関連は見つかっていないという。男性は過去、何度か心臓発作に襲われたことがあったという。どのワクチンを使用したかは明らかにしていない。同国では12月20日からワクチン接種が開始され、既に100万人以上がワクチンを受けている。イスラエルはワクチン接種率では世界チャンピオンだ。

②中国保健専門家はファイザー・バイオテック社のmRNAワクチンの接種を警告している。ノールウェーでワクチン接種後、亡くなった人が出たことで、ワクチン接種と死に関係がある可能性が指摘されているとして、同専門家は「同社のワクチンは高齢者には使用しなことだ」と警告を発している、という内容の記事だ。ワクチン接種後、発熱したり、吐き気を催す例が多く、23人の死者が出たという。そのうち13件はワクチン接種と関連があるといい、全て80歳以上の国民だったという。

その上、中国の「グローバル・タイムス」の中国ワクチン専門医の「米独製ワクチンは早急に製造されたもので、十分なチェックがなされていない。有効性もそれほど高くない」というコメントを紹介している。ここまで読んでいくと、ロシアと中国両国は米独製ワクチンに対抗するために共同戦線を張っていることが伺える。

③約240人のイスラエル国民が米独ワクチンを接種した後、病気になり、メキシコの医者がワクチン接種後、脳と脊髄の炎症で集中治療室に入ったという(RT2021年1月2日)。

④米独製ワクチンを接種後、少なくとも13人のイスラエル人が一時的だが顔面麻痺のような症状が出てきた(RT1月17日)。

欧州連合(EU)加盟国ハンガリーで昨年12月26日、ファイザー・ビオンテック製のコロナ・ワクチンではなく、ロシア製で「世界で最初に実用化されたコロナ・ワクチン」スプートニクVの購入が明らかになると、ハンガリー国民の間で「ロシア製ワクチンだけはお断りだ」といった声が聞かれた。ロシアは世界初の新型コロナ用ワクチンを製造した国としてプーチン大統領自身が率先してスプートニクVをアピールしたばかりだ。

ロシアにライバル心を駆り立てているビオンテック社が開発したコロナ・ワクチンは「mRNAワクチン」(メッセンジャーRNA)と呼ばれ、遺伝子治療の最新技術を駆使し、筋肉注射を通じて細胞内で免疫のあるタンパク質を効率的に作り出す。短期間で大量生産が出来るメリットがある。ビオンテック社のワクチンは最新医薬技術を切り開いたといわれている。

一方、ロシア製や中国製ワクチンは伝統的な不活化ワクチンだ。RTによると、「副作用は100万件で1件に過ぎない」という。なお、中国製ワクチンは5種ある。中国医薬集団(シノファーム)傘下の中国生物技術(CNBG)の不活化ワクチン2種、北京科興中維公司の不活化ワクチン1種、軍事医学研究院と康希諾公司(カンシノ)が共同開発するアデノウイルスベクターワクチン、中国科学院微生物研究所と智飛生物公司が共同開発した組換えタンパクワクチンだ(海外中国メディア「大紀元」12月28日)。

中国武漢発の新型コロナウイルスは世界で19日現在、約9600万人が感染し、200万人以上が死んでいる。最近は、英国や南アフリカでこれまで以上に感染力があるウイルスの変異種が見つかり、新規感染者が世界的に急増している。一方、新型コロナへのワクチン接種が今年に入り本格的にスタートした。

そのような時、ロシアや中国のワクチン製造国は自国産ワクチンを拡大するために国営メディアを通じて欧米製ワクチンのネガティブ報道を繰返し、ワクチン接種を恣意的に妨害する情報工作を展開しているわけだ。

全ての国は基本的には国益最優先の外交を実施するが、コロナ・ワクチン接種は国・民族、宗派の壁を越えて連帯する絶好のチャンスともなる。冷戦時代とは違い、勝者と敗者の外交ではなく、ウインウイン外交が願われている。欧米諸国はその最先端科学の成果、恩恵を全ての国の人々に公平に分かち合うことができるように努力すべきだ。一方、中国とロシア両国は偏狭な思想や覇権への野心を捨て、ウインウイン外交で貢献するならば、世界は両国を見直すだろう。両国はその絶好の機会を逃がすべきではない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年1月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。