このところ髭の佐藤正久議員が会長を務める自民党外交部会は存在感がある。習近平主席の訪日反対決議を党に求め、先般の韓国ソウル中央地裁による日本政府への元慰安婦訴訟判決でも、15日に非難決議についても議論したことを、同会の青山繁晴議員がネット番組で述べた。
メモ書きのある部会のレジメを掲げての説明を見る限り、この問題が65年の日韓国交正常化交渉での一連の合意と07年の日韓合意での最終的かつ不可逆的解決で決着したにも関わらず、主権免除をも否定して判決を下すことは何れも国際法違反である上、事実誤認がある、などの記述が読み取れた。
19日に茂木外相に提出された非難決議は、判決内容は事実の歪曲であり、日韓請求権協定や日韓慰安婦合意に矛盾する上、主権国家は他国の裁判権に服さないという「主権免除」の原則をも否定する「国際法上、常軌を逸したもので到底受け入れられない」と厳しく批判している、と報じられた。
政府に対しては、文政権への是正措置の要求、国際司法裁判所への提訴や新駐日韓国大使へのアグレマン撤回など断固たる措置の検討、日本国内にある韓国の資産凍結や金融制裁など強力な措置の検討、国際社会に対する日本の主張の発信強化などを求めた。どれももっともで、政府には即実行を求めたい。
レジメを見た時、真っ先に「事実誤認」の指摘をすべき、と感じたが、結局「事実の歪曲」が先になったようだ。なぜ順序が重要かと言えば、主権免除を否定する裁判を無視することは正しいとしても、判決文のデタラメな「起訴事実」を否定しなければ、そこだけが国際社会で独り歩きするからだ。
筆者は昨年11月末、菅政権がやるべきことは96年の「クマラスワミ報告書」の反論提起と07年6月の「米下院121号決議」の無効化要求をし、国際社会の誤解を解くことだと書いた。この2件についても、自民党外交部会のみならず、衆参両院で超党派による決議をしてもらいたい。
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そこで「米下院121号決議」について少し触れたい。反日で知られるマイク・ホンダ議員が提案した同決議の表題は、下記の通り読めば中身が判るほど長い。意思表明の「決議」なので、大統領や政府に行動をとらせる法的拘束力はないが、決議した事実は後々まで残る。
A resolution expressing the sense of the House of Representatives that the Government of Japan should formally acknowledge, apologize, and accept historical responsibility in a clear and unequivocal manner for its Imperial Armed Forces’ coercion of young women into sexual slavery, known to as “comfort women” during its colonial and wartime occupation in Asia and Pacific islands from the 1930s through the duration the World WarⅡ.
本会議に決議案を上げたトム・ラントス下院外交委員長は「日本の今日の世界における積極的な役割を称える一方、日本政府が公式な謝罪をしないことは心地悪いものであり、戦後ドイツの果たした行いに比べると、日本は歴史を忘却している」と述べた。(「下院決議案 H.Res.121 はなぜ通ったか」武田興欣青学大教授論文)
表題に「Imperial Armed Forces’ coercion of young women into sexual slavery」(帝国陸軍が若い女性を強制的に性奴隷にした)との表現があり、かつ「戦後ドイツの果たした行い」と比べているのを見れば、ラントス委員長がこの事案をホロコーストと重ねていると知れる。
自身がホロコーストの生き残りのラントス議員は同決議の翌年亡くなったが、その名を冠した「トム・ランクス人権員会」を残した。同委員会が、昨年12月に韓国で強行採決された、民間の脱北者団体などによる北へのビラ散布禁止を含む「南北関係発展法改正案」の聴聞会を開く件は先月書いた。
が、そもそも存在しない慰安婦「問題」は、ホロコーストとも対北ビラ禁止法とも比べられるべきでない。米国決議の表題や今般の韓国地裁判決の起訴事実の記述を、事ある毎に否定しない限り「嘘も百編いえば真実になる」といわれる通りの事態をいつまで経っても覆せない。
ようやく外務書も「慰安婦問題についての我が国の取組」と題するサイトで、以下のような記述を加えるようになった。
(5)このような日本政府の真摯な取組にもかかわらず、「強制連行」や「性奴隷」といった表現のほか、慰安婦の数を「20万人」又は「数十万人」と表現するなど、史実に基づくとは言いがたい主張も見られる。これらの点に関する日本政府の立場は次のとおりである。
- 「強制連行」・・これまでに日本政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述は見当たらなかった。(このような立場は、例えば、1997年12月16日に閣議決定した答弁書にて明らかにしている。)
- 「性奴隷」・・「性奴隷」という表現は、事実に反するので使用すべきでない。この点は、2015年12月の日韓合意の際に韓国側とも確認しており、同合意においても一切使われていない。
- 慰安婦の数に関する「20万人」といった表現・・「20万人」という数字は、具体的裏付けがない数字である。慰安婦の総数については、1993年8月4日の政府調査結果の報告書で述べられているとおり、発見された資料には慰安婦の総数を示すものはなく、また、これを推認させるに足りる資料もないので、慰安婦総数を確定することは困難である。
一歩前進だが、(5)とある通り、(1)から(4)までは講和条約や二国間条約で個人の請求権を含めて解決済みであること、およびこれまで行った共済策や謝罪などを縷説し、その後の否定になっている。が、先述したようにこれは順番が逆で、(5)にある流言の否定を冒頭に持ってくるべきだ。
「臭いものに蓋する」のでなく、においの本を絶つことが肝心だ。自民外交部会、願わくば衆参両院には、今回の韓国判決非難と併せて米下院の対日決議取下げの決議をして欲しい。決議の事実を積み重ねることにこそ意味がある。