菅内閣の支持率が急落している。その最大の原因は、感染症対策が迷走していることだろう。これを「コロナ対策」と考えて、PCR検査陽性者数に一喜一憂するのが間違いのもとだ。感染症対策の目標は(すべての原因の)超過死亡ゼロであり、その基準でみると日本は目標を超過達成したのだ。
感染症統計は各国バラバラなので、その数字を単純に比較しても実態はわからない。感染症被害の規模を国際比較する指標としてWHOが開発したのが超過死亡数(死亡数-平年推定値)である。たとえばインフルエンザの死者は(すべての死因の)超過死亡から統計的に推定する。2018/9年のシーズンでは3276人だった。
これに対して「コロナはこれほど対策をしても死者5000人以上だからインフルより大変だ」という話は錯覚である。昨年の超過死亡はマイナスで、感染症被害は世界最少だった。自粛の影響ですべての感染症が減った効果は、コロナの被害より大きいのだ。
Economist誌は毎週、コロナの超過死亡を速報しているが、これをみるとスペインやイギリスやイタリアでは、最大で毎週1万人以上の超過死亡(赤の折れ線)が出ており、その原因のほとんどがコロナ(オレンジ色の部分)だと推定される。
だがこの図に日本は出ていない。政府が公式統計を出さないからだ。今のところ国立感染症研究所の研究員の英文プレプリントが唯一のデータで、ここでも「日本では超過死亡は出ていない」と結論している。次の図のように閾値(推定死亡数の95%信頼区間の上限)に比べると、実際の死亡数はマイナスになっている。
超過死亡数は実際の死亡数−閾値なので、1月から7月までは毎月平均7000人程度のマイナスになっている。8・9月はほぼゼロだが、通年では3万人以上のマイナスと推定される。ベースライン(平年の推定値)に比べても2万人以上のマイナスだ。
4月の緊急事態宣言の効果は出ていない。コロナは日本では毎月の死者数百人のマイナーな病気だからである。それは「新型肺炎」だからニュースになるが、ありふれた「旧型肺炎」のほうがはるかに重要で、毎年10万人近く死んでいる。
肺炎の死者をコロナに付け替えた
ところが昨年8月までに呼吸器系疾患は1万5000人減り、肺炎の死者は1万800人減った。このときコロナの死者は累計1200人だが、肺炎の死者は1ヶ月で1700人も減っている。超過死亡数はほとんど増えていないのに、コロナが増えて肺炎が減ったのだ。
この原因として考えられるのは、厚労省の昨年6月18日の事務連絡である。ここでは
新型コロナウイルス感染症の陽性者であって、入院中や療養中に亡くなった方については、厳密な死因を問わず、「死亡者数」として全数を公表するようお願いいたします。
と書かれている。このあと7月から肺炎の死者が顕著に減り、コロナ死者が増えた。肺炎で死んだ人がPCR陽性だったら、すべて「コロナ死者」とカウントすることになったからだ。要するに肺炎の死者をコロナに付け替えたわけだ。5000人という死者数も、600万件もPCR検査をやって嵩上げした数字だ。
感染症統計にはこのようにバイアスが大きいので、信用できない。中国やロシアや韓国のようにコロナ死者を過少申告する国も多いが、日本はコロナ死亡数を過大申告している唯一の国である。厚労省はこれを隠すため、人口動態速報の推計も出さなかった。
かつて大日本帝国は大本営発表で戦果を誇大に発表したが、今回はコロナ被害を誇大に発表する逆大本営発表である。その目的は、かつてと同じく官僚機構の無謬性を守ることだ。今まで1年近く多大な犠牲を出して続けてきたコロナ対策が、最初から必要なかったということになると、ヨーロッパのように暴動が起こりかねないからだ。
しかし感染症統計はごまかせても、人口統計はごまかせない。2月には昨年末までの人口動態速報が出るので、おそらく死亡数は一昨年より1万6000人ぐらい減り、超過死亡数は(推定モデルによるが)マイナス2万人以上になるだろう。2月6日には緊急事態宣言を解除し、通常の生活に戻ってもいいのだ。
【追記】専門家の指摘を受けて、超過死亡数の図を修正した。超過死亡数は「実際の死亡数-閾値」とするのがWHOの定義なので、人口動態ベースの減少より大きい。