銀行の役目

最近ある20代の方と話していたらEmailアカウントはあるけれどまったくチェックしていないといいます。ほとんどのやり取りはスマホを使ったショートテキストとかLINEのようなアプリで済ましているそうです。最近では少し分量の多いものをEmailで送るときには「Emailに送ったから」と断りを入れない限り読んでもらえなくなりました。

銀行 (y-studio / iStock)

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顧客とのやり取りもEmailよりテキストが圧倒的に早く済み、Email至上主義はとっくに終わっています。20数年で世の中のスタンダードがこうも変わるとは驚き以外のなにものでもありません。

私が時折話題に振ってきた銀行の役目。こちらも周辺環境はどんどん変わり、銀行自身が変わっていかないとついていけない時代になってきたようです。銀行の業務は法人向けと個人向けでは大きく違い、個人向け主体のリテールバンクは試練がやってくるように思えます。メガバンクは大口法人と海外企業などへの融資や仕組み金融など多角化と国際化が進んでいますのでまだ生き延びられると思いますが、地銀とリテールバンクに対しては私は長年、厳しい評価をしてきました。

その一つが顧客から見た銀行の利用価値であります。様々な取引はインターネットバンキングで処理するため、手数料は低下傾向です。一般的な方の場合、銀行口座は給与や年金が振り込まれる際の窓口にするのですが、その後の取引で銀行にとって儲けにならなければ何のためのサービスかわかりません。預金集めに必死だった銀行も低金利が当たり前になり個人客のどこで儲けるのか、その儲け口が薄くなってきています。

例えば給与が振り込まれた、それをスマホ決済用の口座に移した、支払いは電子決済で済ませるという流れがごく普通になれば銀行の役目はずいぶん軽いものになります。そして今回、日経が報じたのは「給与デジタル払い21年春解禁、銀行口座介さず 政府方針」であります。つまり給与が電子決済用口座に直接振り込まれる時代が到来しそうなのです。これでは軽い役目どころか上空を通過されてしまい、給油にすら降りてこない飛行機のようなものであります。

銀行が顧客をつかむチャンスはかつてありました。それはデビットカードです。いわゆるキャッシュカードで支払いをする機能ですが、これをスマホに組み込み、デジタル化するといった工夫は20年前から準備できたはずなのです。

クレジットカード会社もチップ化が遅れた怠惰が祟っています。カナダではQR決済はアジア系の店でアジア系の方がたまに使うぐらいでしょうか。多くがクレジットカード決済で支払いの時にレジの横にある端末にクレジットカードを軽くタッチするだけで瞬時に決済されます。暗証番号も通常取引程度の金額ならいりません。ある意味、スマホを立ち上げる手間がない分、QR決済より早いのです。一方の日本は中国でブームだったQR決済に一気に流れてしまいました。(QRコードは日本が開発したものです。)

銀行が法人相手だけと事業をするなら店舗数は大きく縮小できるはずです。個人的にはそんな銀行がいつできてもおかしくないと思っています。個人相手の金融サービスは日々の管理、カスタマーサービスに於いて全く違う次元の手間暇とコストがかかります。ならば、それを全部止めて法人専用にしてしまえばよいと思うのです。

例えばカナダにある三菱UFJ(MUFG Bank) はもう20年ぐらい前から法人専用銀行になっています。故にカナダにいる日本人は三菱UFJがあることはほとんど知らないでしょう。私も会社を通じて口座を持っていたのですが、融資を受けるわけでもなく使い勝手も悪いので昨年閉鎖しました。あくまでも融資を受けるなど銀行サービスを必要とする法人向けでありますが、逆に的を絞れて業務効率は高いのかもしれません。

法人にとっても銀行が重要ではなくなったのは手形がなくなり、現金決済が普通になったことはあるでしょう。手形の流通額は1990年と比べると今では数%程度まで落ちてきています。海外の場合は小切手が流通しているじゃないかと言われると思いますが、それも昔の話で小切手はだいぶ減り、多くの支払いはインターネットバンキング、Wire TransferやInteracというEmailやスマホ番号にリンクした送金です。Interacは送金手数料は無料です。小切手は今はスマホで写真を取れば入金できるので銀行に持ち込む必要はありません。

マネーの電子化は我々が思っている以上に急速に進化しています。かつてこのブログで日本から現金はなくなるんじゃないか、と申し上げたら「そんなバカことはない」とお叱りを受けましたがいずれ無くなると思います。持ちたい人は持てばいいのですが、使う時に現金を嫌がるのは店舗だけではなく、例えばカナダの銀行では法人口座に於いては「現金取扱手数料」を取られるのです。

そういう時代になったということですね。銀行の役目は終わらないですが、顧客が何を必要とし、自分たちがどんなサービスが提供できるのか、早急に組みなおさないと厳しいと思います。半沢直樹は銀行の融資先の問題話が多かったのですが、今は逆半沢直樹の時代が到来したということのようです。池井戸さんも次の小説の手が止まっちゃいますかね。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月27日の記事より転載させていただきました。