倒産前の会社清算、実際にできるだろうか?

今日のテーマはなかなか難しく、私自身も考えがまだまとまっていません。しかし、考えてみる価値は十分にあると思います。

株式投資に於いて株価の目安となる一つの指標にPBR(株価純資産倍率)があります。あくまでも論理的な話ですが、1倍以上なら解散した時は株主の確保できる投資額は少なくなりますが、1倍以下ならよりたくさん返ってくるというものです。

( Drazen_ / iStock )

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日本の上場会社はPBRが1倍以下が多いことで知られています。上場会社で一番低いのは千葉興業銀行でダントツの0.08倍をはじめ低PBR株には地銀がずらり並んでいます。自動車業界ならトヨタで1.18倍、日産で0.5倍、三菱自動車になると0.43倍といった具合です。

最近は株式投資に於いてグロースVSバリュー株という仕切りの中でPBRなどの指標が基準と比べて低い割安に見える会社に投資する傾向がかつてほど盛り上がらず、高成長を期待できる会社が過熱感をものともせず、買いあがるという傾向が見て取れます。

さて、今日は上場会社に限らず、コロナ禍の中、日々進化するビジネス環境、更には事業継承という点で後継者がいないといった問題を抱えている中小から大企業に於いてある日、突然事業を止める、そして会社にある資産を全部整理し、現金化したのち、株主にお返しするということが現実的に可能だろうか考えてみたいと思います。

2012年にカメラのフィルムを扱っていたアメリカのコダック社が破産し、上場廃止になりました。事業転換がうまくできず、業績は下落の一途を辿ったという有名な話ですが、仮に同社がまだ元気な頃、事業を止めるという選択肢を取ることは可能だったでしょうか?

現実的にはほぼ不可能でしょう。なぜならば世の中の激変がこれほど加速度をつけるとは誰も予想しなかったし、経営陣はまさかそんな終わり方になるとはわからなかったからです。では今日、例えば、電気自動車もうまくできず、自動運転の車も見よう見まね程度しか開発できない会社があったとします。その会社はそれでも10年後に賭けて経営を継続すべきでしょうか?今だからこそ考えられる「事業の停止、解散」は今後、選択肢として出てくるのではないかという気がするのです。それは自動車産業にかかわらず、あらゆる事業においていえることだと思います。

価値が劣化する前に解散するという選択は株主と従業員と経営者すべてにとって新しい選択肢だとしたらどうでしょうか?

では実務を考えてみます。会社は走っている電車のようなもの。突然止まれないので止まる準備として私なら資産管理会社に資産を移しながらゆっくり営業活動を止め、債権債務の整理を進め、1年ぐらいかけて電車が止まった時点で清算会社として器がゼロになるまで従業員から未収未払いまで全部きれいにしていきます。一般的な企業倒産と似たプロセスとなりますが、倒産ではないので作業は裁判所が監理するわけではなくスムーズに作業が進むかと思います。

なぜ、事業継承者を探さずに途中で止める選択をするのか、といえば売却し継承してもらう場合、買い手がリスク見合い分の懐(hidden liability)を確保するため、安値での売買となる可能性があり、それが必ずしも株主の利益につながらないこともあるからです。ならばPBRが1倍以下である限りにおいて止めてしまった方が株主や経営者更には従業員のメリットがあることもあるでしょう。

もう一つは現代社会における競争のレベルが2段階も3段階も上昇する中、専門的サービスに磨きをかけ、企業価値を向上させ続けたり、ディファクトスタンダードを握るといった企業価値の確保が絶対条件になっていることがあります。専門的サービスである技術や流通、サービス面などに於いて最新のテクノロジーや仕組みを取り入れるとなれば見合いの資金が必要ですが、それが追い付かないのです。

ディファクトスタンダードとは「事実上の標準」という意味ですが、別に日本一、世界一になることだけを言っているわけではありません。地域や県でNO1、あるいは飲食店なら1キロメートル圏内の店で圧勝できればそれは一種のディファクトスタンダードとも言えます。つまり、世界標準ではなくても地域標準でもいいのですが、それがどうやっても取れないとなればそれは10年やっても同じであると考えられます。

もちろん、息子や娘に継いだら世紀の大逆転が起きたというケースも存在しますが、某家具店のようにその逆もまた起きているわけで会社経営が異様に難しくなり、勝ち負けの逆転はたやすくない時代なのです。だったら、元気なうちに清算があってもよいかと思うのです。

芸能界では昔、キャンディーズやピンクレディ、最近では嵐が人気絶頂期に活動を解散や休止をしています。思い起こせばキャンディーズがあの時に止めていてよかったと思う人は多いでしょう。今だから思える幸せな終わり方なのです。

会社だって同じじゃないでしょうか?この発想は斬新と思いますが、今後、それに気が付いた会社が積極的に取り入れるオプションはあるのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年1月29日の記事より転載させていただきました。