田原総一朗です。
ジョー・バイデン氏が、第46代のアメリカ大統領に就任した。バイデン氏が勝利した、というよりはトランプ氏が自滅し、結果的にバイデン氏が、大統領になったということだろう。バイデン氏の支持率は49%。バラク・オバマ前々大統領が政権初期に記録した61%よりかなり低く、過半数に達していない。
それにしても、今回のバイデン対トランプの闘いは、南北戦争以来と言ってもいい、すさまじい分断選挙だった。だからこそバイデン氏も、就任のスピーチで、「連帯」をくり返し訴え、「団結」や「結束」を意味する言葉を8回も使った。
いったい何がアメリカを「分断」したのか。政治思想で考えれば、当初民主党の有力候補とされたサンダース氏は完全な社会主義者であるが、バイデン氏は極端ではなく、いわば中道派だ。トランプ氏も過激な発言はするものの、右派でもなく戦争は大嫌い。実際に4年間、戦争らしきものはしなかった。
では、アメリカの「分断」とは何なのか。グローバリズムの世界になり、アメリカの製造業は、コストの安いメキシコやアジアに流出し、旧工業地帯は不景気に陥った。
一方、ウォールストリートでは、巨額の富を築く経営者も出現。貧富の格差が広がった。
そんなとき現れたトランプは、歴代の大統領が誰も絶対口にしなかったことをためらうことなく発言した。
「世界のことはどうでもいい、アメリカさえよければいいのだ」
自国第一主義である。そして、自分と意見の合わない人物は敵と決めつけ、ホワイトハウスのスタッフでも、一旦敵とみなせば、容赦なく切り捨てた。
民主主義とは、自分と意見の異なる人を認めることである。理屈はすばらしいが、どうしても論争が長くなり、大事なことが決められないという欠点もある。オバマ政治はその典型だった。経済的にも技術的にもアメリカの脅威である中国に対しても、確たる対応ができなかった。
しかしトランプは中国も「敵」とみなし、新冷戦状態となった。
反対意見を、敵を切り捨て、どんどん決めるトランプ政治は、一定の国民には強く支持された。しかし「反民主主義」に対する危惧、そして新型コロナウイルス禍への対応の失敗が、多くのアメリカ人の怒りを呼んだ。そして、バイデン大統領が誕生したのである。
バイデン大統領は、アメリカ民主主義の復活を掲げる。就任演説には、「民主主義」という言葉が、11回も登場した。
就任早々、パリ協定復帰、WHO脱退の撤回、マスク着用の義務化など、トランプ路線を覆す大統領令をどんどん発した。これからバイデン大統領は、アメリカを「結束」させ、民主主義を取り戻すことができるのか。
懸念がなくはない。なぜなら、民主主義とは、すなわち、トランプや支持者たちの意見もまた、認めることだからである。
編集部より:このブログは「田原総一朗 公式ブログ」2021年1月29日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた田原氏、田原事務所に心より感謝いたします。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、「田原総一朗 公式ブログ」をご覧ください。