パナソニックの再生

パナソニックが3月決算予想を発表しました。日経のタイトルは「パナソニック、通期業績を上方修正 テスラ事業は黒字に」、一方、産経は「パナソニック、25年ぶり売上高7兆円割れへ 令和3年3月期業績予想 上方修正も減収減益」と全く違うニュアンスになっています。どちらがより正確かと言えば産経なのですが、車載電池に少しだけチャンスが見えてきたという点では評価します。今日はそんな同社について思うところを記させて頂きます。

(winhorse / iStock )

(winhorse / iStock )

家電製品を扱うパナソニックとしては消費者がプラグを電源に差し込むのがなによりの第一歩。ところが、津賀一宏体制下のパナソニックは電源を抜くことで忙しくしてきたと思います。思えば津賀氏が社長になった2012年、手掛けたのはプラズマTVからの撤退でありました。そして今般、津賀体制にではたぶん最後となるであろう太陽電池事業からの撤退を発表しました。

パナソニックにおいて津賀体制だけが負の整理というイメージがありますが、前任の大坪文雄氏も事業整理に追われていました。大坪氏の時代にはナショナルブランドの廃止、三洋電機とパナソニック電工の買収と三洋の大リストラ、2011年のパナソニック4万人リストラなどがありました。

大坪氏においては前任の独裁者、中村邦夫氏の傀儡とも確執ありともいわれ、経営以前にとにかく、中村、大坪体制時代に散らかったおもちゃ箱の整理にその多くのエネルギーを費やさざるを得ないという逆向き経営であったと言わざるを得ません。パナソニック版「文化大革命」だったのでしょうか。ただ、津賀氏が鄧小平だったとは思えませんが。

では21年6月の株主総会で承認されるであろう楠見雄規氏はどういう経営をするのかと言えば「競合他社に比べてスピードで劣っている」「一つ、二つ他社が追いつけないものを各事業が持てば、成長の核となれる」(日経)と述べているので同社の弱みは当然、分かっているものの個人的には引き続き、事業整理に追われるような気がします。

経営のスピードが遅い、これは多くの日本企業に言える特色で下から上に向かい、重層のヒエラルキーの中、最後、権限と決定権がよくわからない役員会議でようやく稟議が決裁されます。その上、社内が同質化していないと必ず、足を引っ張る曲者が関連部署にいるわけです。「お前のところ、大した稼ぎもしていないのにこんな事業を任せられないだろう」「おまえが失敗したらそれが最後は俺のところに回ってくるんだ」と仮に稟議決裁されても必ず難癖をつける輩はいるのです。

おもちゃ箱のような会社になると全体を俯瞰する本社の実務担当を口説くのが社長より苦労するというのは社内的な「ひいき目」と「自己保身」が出てしまうからです。パナソニックの場合にはどうもその傾向が強い気がしており、楠見次期社長が経営の核となる事業を持つには他社の何倍ものエネルギーを使わねばならないように見えます。

先日のブログで「事業をある日、止めて清算することは可能だろうか」という話題を振らせて頂きました。異論ではありますが、私は従業員のやる気を最大限に引き出すにはそれは大いなる選択肢だと思うのです。同業のシャープが経営難に陥った時、優秀な人材がどんどん他社に移っていきました。日産自動車もルノーとの関係、ゴーンの問題などでクルマづくり以外のところで突っかかっている際に多くの人材流失が起きています。しかも良い人材ほど先に出るのです。

私がかつて務めていたゼネコンも倒産する前から少しずつ人材の流出が始まり、倒産と同時に一気に抜けます。私も早い時期に抜けることができたのですが、後からみれば結局抜けられた人と抜けられなかった人に雲泥の差がついたと思います。抜けられなかった方は事業再生の支援会社から再就職のオファーがありましたが、その雇用条件はとてもシビアなもの。しかし、それを受け入れなければ明日からの生活に困るという究極の選択肢のようでした。

外から見るパナソニック社はとても人間臭い会社。それこそドラマにできるような感じかもしれません。それゆえに事業の的が絞れず、リストラや事業の再構築に時間がかかり過ぎ、ようやくその整理が終わったと思ったら世の中は既に2歩も3歩も先に行っているという状態に見えます。

パナソニックは何の会社?と言えなくなったところが最大の弱みなのだろうと思います。いろいろ手を出しているけれど本当に決め手の事業が少ないように感じます。いつまでも「マネシタ」では困るのですが、それが社風だとしたらカリスマ経営者を外部から持ってこないとこの会社の本当の体質改善はできないような気もします。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月3日の記事より転載させていただきました。