膨張する中国への包囲網

3年ぐらい前にある外交官と談話している際に日本をどう守るか、という話題になり、私が「第二日英同盟」を結ぶぐらいの英国との関係改善を目指すべきと意見しました。くだんの外交官が「今更、英国?それはない、ない」と手を振りながら否定します。私は「英国ほど日本と相性の良い国はないのにその価値をずっとおざなりにしていて戦中戦後はドイツが真面目な性格故に日本と合うという勘違いを続けてきた」と言い切りました。

英国と日本のウマが合う理由、表層的には王室、島国、大陸との微妙な距離感、奇妙なプライド等々上がると思います。お互い、非常に自尊心が高く、必ずしも他人(他国)と仲良くするのが得意ではなく、地道になんでも自分でやろうとするところなどはそっくりなのであります。また、本稿で時々表現する狩猟民族と農耕民族という点において英国人が農耕民族だとは思えないのですが、島国という枠組みからどうにかして外に出ていくことを考えている点は日本も狩猟的性格は持ち得ています。

(写真AC:編集部)

(写真AC:編集部)

その英国がTPP11に参加表明をしたことで中国をビビらせているという日経の編集委員記事に共感を覚えました。「習近平TPP戦略に思わぬ壁、英国『脱欧入亜』の衝撃」というタイトルは膨張する中国への大きな対策の一つとなるでしょう。ただ、TPP11が発効した後、貿易量がどれだけ増えたのか、改めて検証する必要はあります。コロナで統計的数字に歪みが生じているはずですからそのまま数字を読み込むことはできませんが、肌感覚として発効後のフォローが悪いという気がしています。英国が加入するにあたり、もっと意味があるテーゼを持たせるべきでしょう。

産経には「『台湾海峡で戦争の危険性』 台湾空軍・前副司令官、離島攻撃リスク指摘」という記事があります。今の状態は一触即発ではないけれども確実にそのリスクは高まっており、中国による3つの侵略があり得るとしています。中国漁船を取り締まる台湾の公船に中国の海警船が攻撃するケース、台湾が実効支配する東沙(プラタス)諸島などを占拠するケース、台湾本土上陸のケースであります。

台湾の場合、アメリカが後ろ盾になることをバイデン政権が継承しているので台湾が代理戦争の当て馬的な形に見えなくもありません。ただ、台湾も昨年の香港の民主化運動の顛末を見てしまっている以上、中国が本気を出せば同様の結果になることを恐れています。また、バイデン-習近平電話会談で習氏が香港、台湾、ウイグルを「核心的利益」で譲歩しない姿勢を明確にしています。

トランプ政権は昨年、台湾を国家として承認することを真剣に検討していました。なぜなら仮に中国が台湾を貶めたとき、アメリカが正当な理由をもって台湾を支援するには台湾が国家としてアメリカとの同盟関係にあることでアメリカ世論の支持を取り付けることが可能だからです。(FDルーズベルトが選挙公約で戦争をしないといったのに真珠湾攻撃を理由に日米対戦ができたのも反日というアメリカ世論の後押しがあったからです。世論を盛り上げることは大統領のStatesmanshipそのものなのであります。)

バイデン大統領とインド、モディ首相は電話会談を行い、日米豪印の4カ国による「クアッド」について前向きに取り組むことで方針一致しました。また、4カ国の首脳が近いうちに会談することも決まっており、その際に「中国にやや腰が引けているインド」がどう対応するか注目されています。特にミャンマーのクーデターで国境を接するインドと中国の緩衝帯のような役目を果たした同国の行方が不透明な中、インドとしてミャンマーが緩衝としての期待ができないリスクが顕在化した以上、重い腰を上げざるを得ない状況にあります。

最後に包囲を決定づけるのは私はロシアではないかという気がしています。プーチン大統領の支持率がナワリヌイ氏の拘束で急速に悪化しており、読売によると18-24歳の若年層のプーチン支持率が51%しかないと報じています。明らかに「プーチンの賞味期限切れ」状態となっており、ロシアの民主化がさらに進むようであれば中国の包囲網はガチガチのものになります。

世界の中で「出る杭は打たれる」現象はより鮮明になっており、国際関係論的なパリティ(均衡)が保たれなくなっています。特に力による支配へは世界の監視体制が強まり、今後、更に締め上げられていくことになるでしょう。欧州もメルケル首相の退任が間近になり、今後の政権と対中国のスタンスが大きく問われます。

個人的には中国の膨張は世界が一丸となって抑え込む方向がより強くなってくるとみています。そしてアジアの盟主である日本にその大きな役割と期待感が出てくることは確かでありましょう。これに応えらえるかが世界の中の日本の位置づけを決めていくことになりそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年2月12日の記事より転載させていただきました。