「51歳で左遷」の川淵三郎氏も応援!「大人のインターン」とは? --- 長尾 和

みなさんは「インターン」と聞くと、どのようなことを思い描くでしょうか?

「インターンは大学生がやるもの」というイメージをお持ちの方も多いかもしれませんが、社会人向けのインターンも存在するのです。

その名も、”実践型ビジネスインターン プロキャリ”。「大人のインターン」と呼んでいただいてもいいでしょう。『「51歳の左遷」からすべては始まった』のご著書もある日本サッカー協会元会長の川淵三郎氏に「プロキャリ」のスペシャルアドバイザーに就任していただいています。

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大学生が職業経験として企業活動の一部に参加するのではなく、例えば、大手や中堅企業でビジネス経験のある若手から50代以上のベテラン世代が、3ヶ月、半年、1年などの期間を定め、有望スタートアップ企業や地方企業に、プロジェクトベースで参画する制度です。

これは、インターン側、人材派遣側企業、受け入れ側企業の3者にメリットがあると考えています。

インターンには、転職を見据えて短期間ほかの企業で働く「お試し就業」、これまでのビジネス経験を活かして活動の幅を広げる「副業」として、参加いただけます。また、もう少しライトに、自分自身のやってきたことが何に活かせるのか知る、他業種や他地域など、「他の世界」を知るなど、ご自身の視野を広げるためにも活用いただけます。

一方、スタートアップ企業や地方企業の立場から見ると、組織やネットワークが不安定な中での舵取りを強いられる経営者も多く、大企業や中堅企業で経験を積んだ人材を迎え入れることで経営の補強をする目的等に、この制度を活用いただけます。

人材を送り出す大企業や中堅企業にとっては、人材育成の新たな研修制度として活用いただけます。

では、何故いま”実践型ビジネスインターン プロキャリ”を立ち上げようと思ったのか。

企業規模も事業のフェーズも様々な企業での経験を積む中で感じた「もったいなさ」、そして、人生100年時代と言われる中で「生きがい」を持って活き活きと人生を謳歌する人が1人でも増えてほしいという願いが根底にあります。

「もったいなさ」とは?

私自身、大中小、様々な規模の企業での就業経験を経て、「本当の人材」とは何なのか、を考えるようになりました。

私は大学卒業後の1993年に伊藤忠商事に入社し、豪州・米国の電力プラント輸出入や米国での電力事業開発に約9年に渡り従事。その後、新規事業開発やM&Aを担う部署で更に約2年の経験を積み、2003年に伊藤忠の事業会社として「株式会社プロパティ・リスク・ソリューション(現 デロイト トーマツ PRS株式会社)」を社内起業、代表取締役に就任しました。当時32歳での事業会社社長就任は最年少でした。2005年にMBOにより独立、伊藤忠を退職しました。

伊藤忠では、文字通り、大企業ならではのスケールの大きな事業に携わることができたことに加え、インフラや資金、組織が盤石な状態で起業できるという貴重な経験を積めたと思います。

退職後は、自身での起業や、中堅企業の取締役としての企業経営、また、スタートアップ企業とも数多く関わり、投資や事業へのアドバイスを行っています。

この間を改めて振り返ると、組織が脆弱で、”優秀な人”の紹介を求められることが多かったと思います。(もちろん、事業フェーズに合わせてしっかりと組織を作り、人を集めている企業もたくさんあります。)そして、”優秀な人”に求めることを深堀ると、往々にして大企業に勤める人々に辿り着いたりもしました。肌感覚として、大企業に”優秀な人材”が偏在しているのではないか、と感じるようになりました。

一方、スタートアップ企業や中小企業の中には「大企業で働く人は合わない」という人もいます。事実、スタートアップ企業では相応のスピード感が求められたり、中小企業ではより柔軟に、かつ、広範に役割を果たすことを求められたりすることは多いでしょう。

しかし、「大企業で働く人」の全てが合わないか、と聞かれると全くそんなことはないと思っています。先述した伊藤忠での社内起業は、スタートアップ企業からすると非常に稀有な環境での起業だったと思います。インフラや資金は盤石な状態なのですから、そんなことを言うと「ほら、やっぱり大企業の人は安穏と起業もできるじゃないか」と思われるかもしれません。

ですが、その裏側には相応のプレッシャーがあることも想像してみてください。とにかく成果を出すこと、利益を出すことを求められ、伊藤忠として後ろ盾をしている以上、君はその期待に応えるんだよね?という、VCやエンジェル投資家に向き合うのと同様に、時にはそれよりもシビアな状態だったとすら感じます。

もっと違う局面で大企業ならではのシビアさを感じてきた方もいらっしゃると思いますが、要は、「大企業の人だから…」と誤解があるということです。

また、「大企業の人」も外の世界を知らぬがゆえに、自社の良いところや自分自身の可能性に気付けずにいる方も多いのではないかと感じています。「もったいない」の一言に尽きます。

そんな伊藤忠も、最近は3~4年目の若手の退職が増えたと聞きます。理由は様々ですが、多くは、やりたいことができない、ということだそうです。本当にやりたいことができないんでしょうか?その後、スタートアップを立ち上げる、またはそうした企業に転職したとして、先にお伝えした通り、丸裸の状態での起業はインフラや資金の脆弱さに苦戦することが多い。それなら、伊藤忠商事のありったけのインフラと資金を踏み台に(というと怒られそうですが)して、やってみてもいいのではないでしょうか。

語弊を恐れずに申し上げると、新卒で規模の大きい企業に入社できる学生は、少なからず何かしら可能性を秘めている地頭の良い優秀な人たちだと思います。ですが、いつの間にか井の中の蛙と化し、会社の言うがままの兵隊となってしまう、非常にもったいないことと感じます。

そして、いざ外に飛び出してみて初めてシビアさを知る、自社のポテンシャルに気付く、それでは非常に残念です。大企業だからこそ積める経験を積み、それをもって、外の世界で活躍していく、ということでも全く遅くないと個人的には思います。

つまり、若いうちから外の世界を見る機会さえあれば、自社の可能性について考えたり、外の世界で活躍するために必要な武器は何か、今この会社で鍛えておくべきことは何かと自身のキャリアについて考えたりできるのではないかと。

スタートアップ企業や中小企業の人たちが大企業で働く人のことを誤解されていること、大企業で働く人たちが自社や自分自身のポテンシャルに気付けないこと、もったいないなと思います。

プロキャリを通じて、双方の誤解が解け、お互いがお互いの良いところを活かしあえるような活発な人流が生まれることを願っています。

長尾 和(ながお・やわら)株式会社ファモット 代表取締役
伊藤忠商事の社内起業・MBOを経て、独立。多岐にわたる業界での起業・事業再生を経験。東証一部の明和地所常務取締役執行役員などを歴任。