台湾をめぐる日本とクアッドの将来(J.パンダ)

2021年02月15日 06:00

日本と中国が国交正常化を実現した1972年の日中共同声明以来 、台湾への関与について日本政府は常に控えめな姿勢を維持してきた。日本の政治家や政策決定者たちは、紛争を抱える東アジアでの台湾の信念を支援するというよりは、むしろ大陸との関係改善を目指しながら中国政府との関与を超党派で優先してきた。また、日台間の公的な交流が非常に限定的なものに留められているのも、中国政府に日台関係が非公式かつ極めて商用的なものであると印象付けることを企図してのものである。だが、このような日本の立場には僅かな変化が見えてきており、日本の安全保障上の優先度が変動し、また台湾自体に対する展望も進展していくという新たな動きが現れている。

Oleksii Liskonih/iStock

近年の中国は、東シナ海での日本に対する挑発行為や台湾の海空域への侵入行為といった好戦的態度を見せているが、これが日台間のダイナミズムにとっては新たな刺激となっている。2020年9月、日本の菅義偉首相と台湾の蔡英文総統との間で、国交断絶後初めてとなる首脳間での電話会談が取り沙汰された 。早急には電話会談を行うつもりはないと蔡総統は直ちに明言したものの、菅首相が電話会談に関心を示したということは、台湾政府との対話を始めたいという関心が日本政府内で高まっていることを暗示している。

これは台湾政府においても同様で、中国人民解放軍が台湾占領という大胆な行動に出た場合に外交的または政治経済的な支援を寄せるとみられる国々と、地域的かつグローバルな関係構築を進めるべきだという動きが盛んになってきている。実際、台湾の呉釗燮外交部長は、中国からの「増大する軍事的脅威」と「現実的な戦争の可能性」に直面した際には、台湾の領土保全のために「グローバルな連帯」の形成を求めると述べている 。米国のバイデン大統領は引き続き台湾を支援するとしており、台湾が「クアッド2.0(Quad 2.0)」の中核となる、あるいは「クアッド・プラス・台湾」という枠組みができる可能性もある。中国による度重なる台湾への領空侵犯に対し、米国政府は2021年1月24日、「確固たる」支援 を行うという毅然たる警告を発するとともに 、南シナ海へ空母も派遣した 。これらの出来事と米国の反応は、この地域に現れた新たな安全保障ダイナミズムにおける台湾の重要性を示すものであり、より接近した日台関係への展望を開くものである。

日本、台湾、そして「一つの中国」政策

中国という要素は日台関係を接近させる可能性を孕んでいるが、同時に両国間の共働効果を妨げる存在でもあり続ける。日中関係があるために、日台関係は「強固だが抑制された 」関係と見られており、日台関係でも中国が必然的に中心的な存在になってしまう。中国による「一つの中国」政策という台湾への外交圧力により、台湾を国家あるいは独立した主体と公式に承認する国の数は、2016年から数えると22ヵ国から15ヵ国へと減少している 。

1972年から続く日本による「一つの中国」政策の堅持と、その延長線上にある、台湾は中華人民共和国の領土の「不可分の 」一部であるという認識により、日台関係は外交または公式の関係に準ずる関係に限定されてしまっている。「一つの中国」政策への抵触を避けるために、日台関係は安全保障上の理解を深めていこうとする目立った動きがあっても、主に民間レベル及び実務レベルの水準に留まっている。

こうした構造により、具体的に日本外交使節団の台湾派遣停止等によって、強固な日台関係の構築が制限されてしまっている。その代わり、交流協会が事実上の日本大使館として、また亜東関係協会が台湾大使館としてそれぞれ活動しており、2017年に前者は日本台湾交流協会に、後者は台湾日本関係協会にぞれぞれ名称を変更した。これは国際社会の場で「台湾」よりも「チャイニーズ・タイペイ」の使用を求める中国の企てに対抗することが狙いであった。

両協会の名称変更は、緩やかだが着実に進展する日台関係を象徴するものである。また、貿易は資本や技術、人的な相互交流における日台協力関係において常に重要な支柱であり続けてきた。1975年の日台貿易経済会議のようなメカニズムは双方の通商関係を促進するもので、日本が台湾にとって3番目に大きい貿易相手国となった一方、台湾も2019年には日本の対外貿易額では4番目に大きい約673億米ドルにも上る 。また、日本は台湾で4番目に大きい投資国でもあり、累計額で約220億米ドルを投資している 。さらに、地理的に近接している日台間では旅行分野での繋がりも強く、2011年に航空環境の自由化を定めるオープンスカイ協定が締結されて以来 、日台間の航空機の発着便数が増加を続け 、2019年には台湾を訪れる日本人観光客が過去最多の約200万人となった 。

東シナ海における衝突

上述の中国ファクターとは別に、台湾と日本(中国もだが)は東シナ海における島嶼の領有権で衝突もしている。台湾が釣魚臺列嶼と呼ぶ一方で、日本は同地域を尖閣諸島という呼称を使用している 。この問題はよく日中間の事案として見られがちだが、台湾は自らも紛争当事国として認識されるべく練られた戦略の一部としてこの地域への権利を繰り返し主張している。例えば、沖縄県石垣市が尖閣諸島を含む行政区画の名称変更を市議会で可決した際、台湾はすぐさま日本政府に「自制」を求め 、両者の関係を損ねることのないよう抗議した。さらに、台湾は沖ノ鳥島周辺に約40万km2にわたって広がる日本の排他的経済水域へのアクセスを求めたり 、放射線量の高い地域周辺で取れた日本の農産物の輸入禁止措置を講じたり 、日本の植民地支配の遺産である「慰安婦 」問題を巡って日本政府からの謝罪と賠償を求める動きも見られるなど 、日台間には懸念事項も少なくない。

しかし、2016年には日台間で海洋協力対話が開かれ、将来的な緊張関係を抑制するために双方が積極的な意見交換を行うことが定められた 。また、日本は東シナ海で度重なる中国の挑戦的な行動に直面しているため、台湾が日本の尖閣諸島領有権を認めることと引き換えに、日本が台湾を独立国として承認するという交換条件が成立するシナリオを日本が模索するかも知れない。現状ではこのようなシナリオがこれまで以上に現実味を帯びている。それは、台湾の領有権主張が戦略的または経済的な根拠からというよりは、むしろ(被抑圧的集団による自助努力の政治を指す)アイデンティティ・ポリティクスと、中国とは異なる立場を取るという手段に基づいたものであることが大きいからだ。従って、台湾は中国に対抗するに足る政治的利益と引き換えに、ある程度までは領有権の譲歩に踏み切るかも知れない。親台湾政治家である岸信夫を防衛大臣に据えたことから、菅首相にとってもより柔軟な台湾政策が選択肢として有り得るだろう。2021年に衆議院議員総選挙を控える菅首相が支持率低迷の中で支持固めを試みる中で 、約300名のメンバーを抱える親台湾国会議員グループや防衛省、そしてバイデン政権によって日本の台湾政策の見直しを迫られるかも知れない 。

クアッド2.0が台湾を繋げる?

2020年に発行された日本の外交青書は、特に日本と中国との摩擦に関する立場に触れつつ、台湾を「極めて重要なパートナー」と位置付けている 。この文脈において、日台双方は地域かつ地球規模の構造の中で協力に向けた新しい方法を見出すことができるのではないだろうか。例えば、日本が米英豪加NZの5ヵ国で構成される機密情報共有枠組み「ファイブ・アイズ」との連携を深めていることに加え、中国に焦点を当てる事においては台湾の包摂も有益なものとなるだろう。

対等なパートナーとしてでは無いにせよ、「クアッド」は台湾が海洋戦略上の不可欠なパートナーとして日米豪印と交流するプラットフォームとして浮上してゆくこともあり得るだろう 。歴史的に見ると、日本と他のクアッド諸国は、対中、対台湾関係の間でいくらか反比例する関係を続けてきた。日中関係がぎこちなくなっていた安倍前政権期には、日台関係が進展を見せており 、またクアッド諸国と中国との関係が悪化している現状を見てみると、クアッドの支援の下で台湾との関係を強固にすることは理に適っていると言えよう。

中国人民解放軍の冒険主義が高まり続けるならば、台湾防衛の青写真を描くと同時に、クアッドは台湾についての共通認識を徐々に確かなものとし、台湾が国際社会においてより多くの承認を集められるよう支援しなくてはいけない。2019年に始まった「米台インド太平洋地域の民主的統治協議 」のような枠組みを通じて、クアッドは共同して台湾を地域的に包摂し、台湾による意義深い多国間フォーラムへの参加を実現することが出来る。台湾を独立国家だと謳うことはまだ実現しないが、日本と他のクアッド諸国が断固とした支援を提供し、台湾の安全保障に貢献していくことは可能だ。例えば−中国に過度に依存している−周辺地域と台湾の経済関係の促進や、クアッド参加各国の対外政策とクアッドのイニシアティブとの外交的な相乗効果をもたらす方法で始めことが可能だ。だが、日本或いはその他のクアッド参加国が堂々と台湾との公式外交関係を結び、台湾を分離した国、つまり独立した存在として承認するためには、「一つの中国」政策への関与を再考する必要があるだろう。このようなシナリオが可能となるまでは、日本とクアッド諸国はそれ以外の分野で台湾との関係強化を続けていかなくてはならない。

ジャガンナート・パンダ 国防研究所東アジアセンターセンターコーディネーター兼リサーチフェロー


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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