バチカンは中国共産党に騙された!

2021年02月17日 17:00

ローマ・カトリック教会の総本山、バチカンは中国共産党政権との間で司教任命権問題で妥協が成立して合意したと報じられてきたが、実際は、バチカンは中国共産党政権に騙されていたことが明らかになった。

▲習近平国家主席、春節を迎えて人民に挨拶する(2021年2月10日、中華人民共和国国務院公式サイトから)

▲習近平国家主席、春節を迎えて人民に挨拶する(2021年2月10日、中華人民共和国国務院公式サイトから)

中国共産党政権の「国家宗教事務局」はカトリック教会を含む宗教団体の聖職者を管理統制する新規則(正式名「宗教教職者の行政措置)は今年1月承認され、今年5月1日から発効することが判明した。

聖職者は共産党政権の管理下にあって、「共産党の指導を支持し、社会主義システムを擁護する」ことが義務となり、その言動は党の統制下に置かれる。

ちなみに、国家宗教事務局は中国共産党中央統一戦線工作部に所属していることから、聖職者の管理規則は共産党中央統一戦線工作部が実施することになるという。

カトリック教会の場合、バチカンは2018年9月、司教任命権問題で北京との間で暫定合意(ad experimentum)したが、昨年10月22日、バチカンのナンバー2のパロリン枢機卿は「2年間、暫定的に延長する」と述べたばかりだ。同時期、中国共産党政権も公式に発表した。欧米諸国では中国の人権蹂躙、民主運動の弾圧などを挙げ、中国批判が高まっている時だけに、バチカンの中国共産党政権への対応の甘さを批判する声が聞かれた。

聖職者の管理統制の新規則によると、司教任命問題では、「中国共産党によって任命され、それを中国カトリック司教会議が追認する」と明記されている。バチカンと中国間の合意では、「ローマ教皇が中国側から推薦された聖職者の中から司教を選ぶ権利」が記述されていたが、聖職者の新管理規則にはその点は全く言及されていないというのだ。

バチカンは中国共産党政権とは国交を樹立していない。中国外務省は両国関係の正常化の主要条件として、①中国内政への不干渉、②台湾との外交関係断絶、の2点を挙げてきた。中国では1958年以来、聖職者の叙階はローマ教皇ではなく、中国共産党政権と一体化した「中国天主教愛国協会」が行い、国家がそれを承認してきた。それが2018年9月、司教の任命権でバチカンと中国は暫定合意し、バチカン・中国共産党政権は関係正常化に前進したというのだ。

バチカンは「司教の任命権はローマ教皇の権限」として、中国共産党政権の官製聖職者組織「愛国協会」任命の司教を拒否してきたが、中国側の強い要請を受けて、愛国協会出身の司教をバチカン側が追認する形で合意したわけだ。暫定合意は明らかにバチカン側の譲歩を意味し、中国国内の地下教会の聖職者から大きな失望の声が飛び出したのは当然だった。

習近平国家主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告してきた。具体的には、キリスト教、イスラム教など世界宗教に所属する信者たちには「同化政策による中国化」を進める一方、法輪功のように中国発の伝統的な心身向上・倫理運動に対しては、身体的な迫害、拷問を駆使して団体・運動の解体を進めるなど、硬軟織り交ぜた政策を実施してきた。

「宗教の中国化推進5カ年計画」(2018~2022年)とは、共産党政権が「宗教を完全に撲滅することは難しい」と判断し、宗教を中国共産党の指導の下、中国化すること(同化政策)だ。新疆ウイグル自治区(イスラム教)で実行されている。100万人以上のイスラム教徒が強制収容所に送られ、そこで同化教育を受けている。キリスト教会に対しては官製聖職者組織「愛国協会」を通じて、キリスト教会の中国化を進めている。

欧州連合(EU)が昨年末、中国共産党政権と投資協定に合意したように、フランシスコ教皇は中国側の巧みな情報工作に騙され、司教任命権問題で譲歩したのだ。EUと同じ間違いを犯したわけだ。人口大国の中国市場を目指す欧米企業と同様、バチカンも中国の潜在的な巨大な宣教市場を無視できない。中国では愛国協会に所属しない地下教会が存在するが、公式と非公式を合わせると数千万人の信者がいると推定されている。

ただし、中国は中国共産党が一党独裁する共産主義国だ。欧米企業から先端技術のノウハウを吸収する一方、中国国内に進出した欧米企業には様々な障害を設けて妨害する。同じことをバチカンも体験するだろう。国交を樹立したとしても、中国国民に自由に接近し、宣教できるという保証はない。

相手に騙されたことが分かった時、人は騙した相手を糾弾し、必要ならば裁判でその是非を問う。バチカンは中国共産党政権に騙されたのだ。それではバチカンは今、北京政府の不正に激怒して、バチカンニュースなどを通じて中国共産党政権の不正を批判するキャンペーンでも展開させているだろうか。否だ。バチカンは今回の中国側の対応に対して沈黙しているのだ。

バチカンは過去、共産主義に騙されてきた歴史がある。マルクス・レーニン主義の台頭を人類の理想実現の道と考えたり、ナチス・ドイツ政権の時もその実態を掌握できなかった。映画界出身のロナルド・レーガン米大統領(在職1981~89年)は共産主義国をいち早く「悪の帝国」と喝破したが、神を標榜し、神の国をアピールするバチカンは共産主義の正体が分からなかった。

キリスト教の神学とマルクス・レーニン主義の思想構造は酷似している。共産主義世界観はキリスト教世界観を土台として構築されていったとよく言われる。キリスト教ではイエスがメシアであり、人類の救世主、信者は選民だ。一方、共産世界では共産党が指導し、労働者が「選民」で革命を通じて公平で平等な無階級社会を築くと主張する。ヘーゲルの弁証法を無神論唯物社会の建設に利用した思想体系だ。

21世紀、共産主義の最後の発悪ともいうべき中国共産党政権の世界制覇に対し、バチカンは今こそ、中国共産党政権の悪魔性を世界に知らせるべきだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年2月17日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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