政治家が好む「会食文化」は廃れない

菅義偉首相の長男が総務省幹部たちを招き、会食していたというニュースが流れていた。放送関連会社に勤務する長男が総務省幹部を招き、情報交換などをしていた疑いが問題視されている。また、「高級ラウンジ」での会食が追及された自民党の白須貴樹衆院議員の話も報じられていた。「この新型コロナウイルスの感染下でソーシャルディスタンスの2m間隔も取れない高級レストランで会食するとは何事か」といった批判の声が「会食」に関連したニュースには込められている。

▲国立病院機構東京医療センターのワクチン接種会場を視察する菅首相(2021年2月18日、首相官邸公式サイトから)

▲国立病院機構東京医療センターのワクチン接種会場を視察する菅首相(2021年2月18日、首相官邸公式サイトから)

「会食」が悪いのではないことは明らかだ。それでは会食する時期が問題か。感染防止を推奨する立場の政府関係者の会食の場合、批判が飛び出すのは明らかだ。「夜の会食」は営業時間の短縮で難しくなった。感染防止上、注意しなければならないことは言うまでもない。

ところで、政治家や高級官僚たちの会食報道には感染防止に違反しているからだけではなく、「会食」に公金を使うことに批判が込められているのだろう。高級会食を享受する政治家、閣僚のお歴々に対して僻みもあるだろう。「会食」の恵みから外されている人の「俺も食べたいよ」といった叫びと怒りが含まれているはずだ。

「会食」する以上、目的はあるはずだ。雰囲気のいい高級レストランのテーブルを囲みながら懇談することも人間関係をスムーズにするうえで助けとなる。それだけではない。会食中、飛び出す情報もある。政治家ならば、問題に対する相手側の立場を探るといった探偵のような目的もあるだろう。

考えようによっては、わざわざ時間を取って「会食」して話さなくてもスマートフォンの時代だ。メールの1本も送れば、用は済む時代に生きている。国会の審議中ですらスマートフォンを手放さない議員の先生たちだ。ただし、細かい話はそれではできない。証拠が残って困ることもあるだろう。

ではなぜ会食か? 答えは簡単だ。政治家の先生たちばかりか、官僚、学者たち、そして情報機関関係者も「会食」が好きなのだ。もっと直接的に言えば、公金で日頃味わうことができない高級メニューに舌鼓を打ちたいからだ。もっとシンプルに表現すれば、「何か美味しいものを食べたい」といった動物的な欲望を満たすために、約束をとり、居酒屋ではなく、銀座の「会食」をアレンジするわけだ。

当方も結構、その「会食」の恵みを受けてきた。多くは外交官や情報機関関係者たちとの食事だ。ジャーナリストの当方は招かれるほうが多いから、「会食」の約束は楽しみだった。当方を招く外交官や情報機関関係者も会食を結構楽しんでいた。日頃はランチ・メニューで済ましていた外交官も「会食」となれば、やはり少しランクの高い食事メニューを注文できる上に、自分の懐が痛むことはないから猶更いいわけだ。

「会食」を好む外交官は日本人と韓国人の外交官が多かった。「会食」が大好きだった日本人外交官の話だ。彼は会食が終わった頃、小瓶の高級ワインを注文する。持ち帰りだ。もちろん、その代金は会食費の中にちゃんと入れる。要するに、ゲストとの「会食」という名目でワインを自宅で飲むために注文するわけだ。厳密にいえば公金の横領だ。その外交官は任期半ばで東京に人事された。彼は日本大使館公使だった。

韓国外交官との「会食」は仕事の話より日頃の細やかな出来事について談笑することが多かった。韓国外交官は当方と2人、テーブルに座って食事をしていたが、レストランの別のテーブルでは彼の奥さんと娘さんが食事をしていた。その食事代は当方と韓国外交官の会食代に入れて計算されていた。要するに、「会食」の恩恵を受けるために、奥さんと娘さんが別のテーブルで食事をしていたわけだ。恩恵の分かち合い、というわけだ。

オーストリア内務省関係者も結構、会食を好む。当方が日本人ということもあってウィーンの日本レストランで会食したことがあるが、彼らは食事をしながら、用件を出すことが多い。オーストリア人の場合、仕事の件で「会食」する時と、家族や知人たちの「会食」では明らかに違うのだ。イスラエルの情報機関関係者とウィーン市内のホテルで1度だけ会ったことがある。彼は名刺を出し、自己紹介した後、直ぐに仕事の話に入った。ゆっくりと会食するといった雰囲気はない。その時のテーマは欧州での北朝鮮の動向だった。

人は美味しい食事を楽しむ時、心が緩む。口の堅い政治家、官僚も美味しい食事を楽しめば、口が緩み、言ってはならない情報が飛び出すことがある。その意味で、「会食」は情報交換の場ともいえる。新型コロナウイルスの時代、その楽しい「会食」も制限され、政治家の先生や「会食」を享受してきたジャーナリストや著名人も「会食が自由にできる時が来ないかな」と呟いているだろう。

最後に、注意しなければならない「会食」がある。中国外交官がアレンジする「会食」への招きだ。中国共産党政権は欧米の最先端の知識人、科学者など海外ハイレベル人材招致プログラム「千人計画」を進め、会食、賄賂からハニートラップなどを駆使して相手を引き込み、絡めとるのだ。米ハーバード大の教授や米下院議員もその犠牲となっている。中国共産党政権下の「会食」への招待には要注意だ。“ただ”では済まない。

不思議な点は、美味しい食事を味わうだけならば、自分の懐から払える人々が「会食」を喜ぶ傾向があることだ。政治家ならば自分の側近たちを食事に招く資金力はあるが、「会食」に招待されると途端、心が揺れるのだ。「会食」には特別な味が加わることを知っているからだろう。「会食文化」は決して廃れることがないだろう。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年2月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。