高級車が売れているのは株高ではなく「コロナ」のせい

日本の富裕層の消費活動が旺盛だとメディアが報じています。高級外車や客単価の高いレストラン、さらにクルーザーなどの高額商品の販売が増えているそうです。その原因は、金融緩和による株高としています。日経平均株価は3万円台を回復し、株価の上昇による資産効果が、富裕層の消費マインドを後押ししているという訳です。

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確かに、株式だけではなく、ビットコインを始めとする暗号資産や、都心のタワーマンションなどの不動産価格も上がっており、持つものと持たざる者の格差が広がっています。富裕層の資産が拡大しているというのは事実です。

しかし、一口に富裕層と言っても、かなりのバリエーションがあります。一般に富裕層とは金融資産1億円以上の世帯(日本国内で120万世帯程度)とされていますが、金融資産1億円で、株高で資産が20%増えたからといって、1000万円のポルシェや2000万円以上するベントレーを購入するとは思えません。

1000万円以上の高級車が売れている最大の理由は、新型コロナウィルスの拡大で、本当の富裕層が海外旅行に行けなくなったことではないかと私は推察しています。

例えば、家族全員で、ファーストクラスやビジネスクラスに乗ってラグジュアリーホテルに泊まるような海外旅行に出かければ、1回で数珀万円単位のお金がかかります。年に数回海外旅行に行く家族であれば、去年1年間で車1台分位の出費が抑えられたかもしれません。

本当の富裕層と言うのは、株価の上昇や暗号通貨の急騰といったキャピタルゲインで短期的に潤っている人ではありません。

不動産や権利収入など安定的にお金が入ってくる仕組みを持っていて、数億円以上の定期的な収益を得られる人たちです。

彼らは景気の変動やマーケット価格の動きに関係なく、安定した収入を得ています。

このような人たちには、株高はあまり関係ありません。毎年当たり前のように稼いでいる資金を、今まで使っていた海外旅行から別のものに向け始めるようになっただけなのです。

金融資産1億円の富裕層と言っても、年収が2000万円程度のサラリーマンであれば、手取りは100万円ちょっと。資産が増えたからといって、高級車やクルーザーを買い始めるほどの余裕はありません。むしろ将来の増税に備えて、資産を蓄えようとするのが合理的な行動だと思います。

世の中全体が2極化しているのと同時に、富裕層もその中での行動パターンが2極化しているのです。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2021年2月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。