「貧乏生活をするにはお金がかかる」という世知辛い矛盾

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

「貧乏生活を送るためには、生きる上でコスト高になる」、そう言われると矛盾を感じてしまう人は貧乏生活の経験がない人で、強く首肯してくれる人は経験者だろう。一見、完全に矛盾するようなこの主張の裏には、お金の不安がない人には想像もつかない資本主義社会の影がある。

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筆者は貧乏生活の経験者だ。20代まではずっとお金の不安に取り憑かれていた。上京したばかりの時は、南千住で日雇い労働者やバックパッカーの外国人が泊まるドヤ街から、会社に通勤していた時期もある。引っ越しした後のボロマンションでは、筆者が住んでいた部屋で殺人事件が起きたような危険な場所だった(引っ越した後に事件は起きた。まさしく間一髪である)。筆者自身の経験からもこの主張を考察したい。

貧乏生活は膨大な時間と労力を失う

端的に言えば、貧乏生活を送ると、とにかく膨大な時間と労力を奪われる。

筆者は貧乏生活を送っていた頃、スーパーの無料で水を持ち帰ることができるサービスを活用していた。お断りしておくと、「水の無料持ち帰りサービスの利用者は貧乏人だ」などと失礼なことを言うつもりは毛頭ない。持ち帰った水は意外なほどおいしいし、飲料水の購入費が削減できるメリットに惹かれて利用していた。毎月の水道代を出来る限りケチりたいと考え、休日はそのために何度もスーパーを往復していた。夏は肉体労働そのものだ。4リットル用のボトルを2本持って、炎天下を歩いて持ち帰った。

また、少しでも安いスーパーがあれば、多少遠くても根性で歩いて買いに行く。休日の朝にやることは、スーパーをはしごしてなるべく安い食材を買い集めることだ。時間を売って、いくばくかの安価な買い物に満足する。結果として、失うのは膨大な時間と労力である。

お金がないと「合理的な選択肢」を選べない

これは筆者の経験ではないが、お金に余裕がないという人物から聞いた話では「歯医者にいけない」ということだった。冷水を口に入れて多少しみるようでは、気のせいにする。いよいよ、眠れなくなるほど痛くなってから一気に治療をするから、虫歯で歯はボロボロになってしまう。「米国では歯並びが重要視される」という話がある。「入念に歯の手入れができるような、精神的・経済的余裕のある人物を選出したい」という観点で言えば、これほど合理的な人選ポイントもないだろう。

また、ネットカフェ難民も同様の事情を抱えるケースがある。「長い目で見れば、アパートでも借りた方が安上がりでは?」という提案が見られるが、貯金がないから引っ越しをするための一時金を捻出できない。それ故に、コスト高でも日払いでイニシャルコストのないネットカフェ難民へと漂着する。

「良質なものを買って、長く使えばトータルでは安上がり」という正論は、お金のない人にとっては「理論上可能だが、実質不可能なキレイゴト」に聞こえてしまう。良質なものを買うために差し出すまとまったお金がないからだ。

お金がなければ、長期的展望に立った合理的な選択肢を取れない。「学生の間は勉強すべし。アルバイトは時間がもったいない」という主張もあるが、アルバイトをしなければ直ちに学生生活が立ち行かなくなる立場の人には、響かない論理なのである。

お金に余裕がない人が取るべき脱出戦略

だが、お金に余裕がない人にも、脱出できるいくつかの光明がある。幸いなことに筆者は苦心惨憺の末に、極貧状態から脱出することが出来た。個人的経験値からその具体的な戦略を述べたい。

まずは、お金と時間を奪う物を、徹底して使わないことだ。高額なスマホは言わずもがな、高級ブランドバッグや、不要不急な自動車の購入などがあげられるだろう。こうしたものは、購入した後もメンテナンスや保険料などで、ドンドン財布からお金を奪っていく。ハイエンドスマホなどなくても、情報収集はPCがあれば十分だ。

そして、できるだけ健康的な生活に努めることだ。人によっては「健康的な食材は高い」という主張もあるが、筆者はそう思わない。過去記事「お金がなくなって真っ先に食費を削るから余計に貧しくなる」でお話をしたが、栄養の知識をつければジャンクフードや、見切り品の揚げ物よりは遥かにマシなものを低コストで食べることが可能だ。必要なのはお金ではなく、栄養の知識である。その知識も、図書館を利用すれば無料で手に入る。ひとたび体調を崩すと、治療費や勤労に影響を受け、結果としてあらたなコストがかかってしまう。健康でいることはコスト削減になるのだ。

最後に、現状から抜け出すための努力をすることだ。筆者はお金がない貧乏生活の中でも、専門分野の勉強を続けた。それにより、転職を経て年収アップを実現することができたのだ。「勉強をすることにもコストがかかる」という意見もありそうだが、スクールなどに頼らず、独学であればコストも抑えられる。今や、無料・格安で学習素材を見つけることに苦労しない時代になった。必要なのはコストではなく、「今より高みへいきたい」という意欲だ。未来を開拓するために希望を持って勉強に集中していれば、ストレス解消のためにショッピングをして浪費したり、ギャンブルで身を持ち崩したりすることから開放されるだろう。

貧乏生活はコスト高であり、それ故に抜け出しづらいという辛い矛盾がある。だが、どのような状況に置かれても、知恵と意欲と行動力によって道は切り開かれると信じている。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。