社外役員の情報収集行為は「許される業務執行」と考える-会社法施行日にあたって

3月1日は令和元年改正会社法の施行日なので、改正会社法関連の話題をひとつ取り上げます。会社法上の社外役員(社外取締役・社外監査役)さんは、会社法2条15号、同16号により、会社の業務執行は行えないことになっていますが、本日より、社外取締役に限ってですが取締役会の承認決議があれば委託された範囲における業務執行(特定受託行為)も可能となります(改正会社法348条の2。ただし社長の指揮命令に基づく業務執行は行えないのが原則なので、詳しくは条文を読んでください)。

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この特定受託行為は社内の取締役が担当すると利益相反状況に陥る可能性のある業務が念頭に置かれていますが(非友好的買収時における買収希望先との交渉、上場子会社と親会社との取引、MBO時における公正価値算定のための委員職務等)、その他にも社外取締役が内部通報の窓口になったり、有事に社内調査に関与したり、調査委員会委員に就任すること等も(潜在的には)社内取締役との利益相反状況が想定されるため、348条の2に基づく決議を活用することが有用とされています。

ところで、この改正会社法348条の2に基づく取締役会決議を経なければ、社外取締役が会社の業務執行をなしえない(つまり、業務執行をやってしまうと「社外性」を喪失してしまう)というわけではないと考えられています(「考えられています」と申し上げたのは、ここは会社法2条の解釈が関係するからです)。そもそも社外取締役が業務執行はできない、とされているのは、「業務執行」は通常は社長以下のラインによる指揮監督下でなされるものであり、もし社外取締役が業務執行に関与できるとなれば、社長の指揮監督が及ぶことになるため「独立性」が阻害されるからです。

ただ、会社の業務には社長の指揮監督が及ばないものもありうるのであり、その範囲であれば社外役員が業務執行に及んだとしても独立性には問題ないはずです。むしろ、近時のコーポレートガバナンス改革において期待される役割を果たすためにも、社外役員は許容される範囲における業務執行には積極的に関与することが必要ではないかと。では、どこまでが許容される業務執行で、どこからは許されないのか、かなり解釈上あいまいな部分があるため、少なくとも会社法348条の2に基づく承認決議を経ていれば「社外性」は失われない、というのが改正法の趣旨と理解しています。逆にいえば、だれが見ても「社長の支配下の仕事」を社外役員に行わせることは、たとえ同法に基づく決議を経たとしても社外性に問題が生じるということになります。

ここからは私の意見ですが、社外役員(社外監査役も含む)による情報収集行為は、たとえ業務執行であったとしても、会社法2条で規制される業務執行には該当しない、あるいは該当するとしても348条の2に基づく承認決議(つまり「その都度」の解釈を緩やかに認める)をもって委託できると解すべきものと思います。スルガ銀行事例や関西電力事例など、大きな不祥事が発覚するたびに「社外取締役は何をしていたのか」「社外役員の機能不全」と指摘されますが、そもそも社外役員が情報収集できない立場である以上は「不正を発見したくてもできないのだから仕方ない」で終わってしまいます。不正を認識している社内役員も、社外役員に騒がれるのを嫌って、不正公表の直前まで事実を隠すのがあたりまえになっています。

では「会社と社内取締役との利益相反状況」ということを念頭に置いた場合、社外役員による平時からの情報収集行為は会社法2条で規制される業務執行に該当するのでしょうか。348条の2の条文を読む限りは該当しないようにも思えます。しかし、日ごろから経営会議やコンプライアンス委員会に出席して意見を述べたり、経営者の関与するハラスメント案件について「取締役会の承認決議」を経ることなく(承認決議を経ていては証拠を隠されてしまう)社内調査に関与することは、社外取締役の職務に必要な情報収集業務として、むしろ近時のガバナンス改革で社外役員に期待されていることだと思います。また、そもそも情報収集行為を業務として行いうるからこそ、社外役員にも(有事における)善管注意義務違反を問いうる前提が形成されるものと考えます。なお、あまり議論されていませんが、社外監査役の方々も、私は一定の業務執行については(たとえ348条の2に基づく承認決議がなくても)会社法上の社外性を喪失することなく行いうるものと考えております(ただし、社外監査役の場合には、「許容される業務執行」を議論するよりも、「監査権(是正権)の行使に含まれる職務」として議論するほうが適切かもしれません)。

おそらく、今後は社外取締役の特定受託行為については「活動の概要」や「期待される役割」として事業報告や参考書類で開示されることになるでしょうから、社外取締役への評価項目としても有益に活用される可能性があります。いずれにしても、「社外役員に許容される業務執行の範囲」の問題への正答は、依然会社法2条の解釈に委ねられているところがあり、改正会社法348条の2の新設だけで解決するわけではありませんが、各会社において、「何を社外役員に期待するのか」を明確にする議論が活性化する要因になることは間違いないと思います。


編集部より:この記事は、弁護士、山口利昭氏のブログ 2021年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、山口氏のブログ「ビジネス法務の部屋」をご覧ください。