ソフトパワー政策のこれから

自民党ソフトパワー特委に呼ばれお話してきました。

河村建夫委員長(元官房長官、文科大臣)、遠藤利明代行(元五輪大臣)、柴山昌彦元文科大臣、松本剛明元外務大臣など。

ソフトパワー、クールジャパン、コンテンツ政策の現状と課題として以下のとおり私見を述べました。

30年ほど前、ソフトパワー論を提唱したハーバード大学ジョセフ・ナイ教授は、日本は特にポップカルチャーの力を活かすべきと指摘した。

クールジャパンという言葉は2002年、Dマクグレイ “Japan’s Gross National Cool” という日本は80年代の経済大国から90年代に文化大国に変わったという論文が元だ。

ハードパワーに比べソフトパワーは評価基準がはっきりせず、政策的にも扱いにくい。そしてクールジャパンは海外から発見された外来のもの。日本が出したいモノより、海外に求められるものをどう打ち出していくかがポイント。伝統芸術よりもポップカルチャーが中心テーマになるのはそうした流れによる。

参考になるのは、NHKのクールジャパンという番組。日本に住む外国人が日本のクールを語り合う、2006年から14年続く長寿番組で人気も高い。私も月イチで出演しているが、ネタがつきない。外人たちがどんどん提案してくる。日本は掘っても掘ってもクールなネタがある。

当初はアニメ・ゲームなどポップカルチャーものが多かったが、ジャンルが広がっている。食では丼、ラーメンなど。その他にも、友だち、買い物、本、部活、水族館、コンビニ、宅配、マナーなどなど。直近のテーマはテイクアウト。コロナで弁当文化が土台になって新文化が生まれている、という番組。

政府は2000年代の初頭からコンテンツ産業に注目するようになった。

2003年には知財戦略本部を置き、経済産業省や文化庁など関係する省庁とともに、コンテンツなどの知財の政策に力を入れ始めた。かつての国内重視・産業振興策から、海外展開・ネット展開重視へと転換してきている。

まず、海外展開。2013年にクールジャパン機構が設置されるなど資金面での政策ツールは充実した。海外売上は5年で26%拡大。アニメは3.6倍、映画は4.3倍。放送は4.3倍。政策の成果と言ってよい。ただし日本の売上は海外市場全体の2.5%で、伸びしろが見込まれる。

次に、ネット展開。配信は2008年の9.5%から26.0%まで拡大したが、マンガ40%、アニメ15%、音楽8%、動画4%と 分野により差が大きい。出版は昨年、23年ぶりに売上が増加。電子出版の版権ビジネスが伸びた。一方、音楽は世界市場がネットで成長した波に乗れていない。

マンガは海賊版、アニメはネットフリックス、ゲームはグーグルなどクラウド化、音楽はスポティファイなど、海外のプレイヤーが脅威。だが彼らは制作資金提供や海外販路拡大をもたらす面もある。配信はコロナ特需だが、日本のコンテンツがそこにどう乗ることができるか。


方向性として2点提案する。

まずコンテンツと他分野とのマッチング。コンテンツとファッション、食、観光その他の産業との連携により、相乗効果を発揮する戦略が重要。

ポケモン10兆円の売上のうち、6兆円以上がキャラクター商品ビジネス。

アニメ制作者の売上は2400億円、権利ビジネスは2.1兆円。10倍近い規模。

そしてSociety5.0対応。中小企業主体のコンテンツ産業は対応ができていない。

流通は5Gとクラウドに、視聴はIoTVRなど多様な環境となる。特にデータ利用システムの整備が重要。ネットフリックスは全てデータを元にしたターゲティングビジネスだが、国内のテレビは視聴データを使えていない。

また、海賊版対策は知財戦略(著作権)とIT戦略(通信の秘密)との間の調整が重要課題。同様に、知財・コンテンツとIT・テクノロジーを巡る政策案件は増大すると予測される。デジタル庁が菅内閣の重要課題になっているが、クールジャパンに関する行政組織のあり方も検討すべき。

私が関わる民間事例を2つ挙げる。まずeスポーツ。

日本はeスポーツの後進国だったが、環境が整い、産業として離陸の兆し。経産省-JeSUの報告では5年後に16倍に成長すると予測している。コロナ特需で急成長しており、予想より早い成長も見込まれる。ただしそのためには産官学ともに取り組むべき仕事がある。

もう一つの事例、拠点づくり。9月、コンテンツの集積拠点「CiP」を東京・港区竹芝に街開きした。コンテンツ、IT、大学などが集い、Pop系、Tech系のプロジェクトを走らせている。平井卓也デジタル大臣からは、この場所をデジタル庁の支部にしたいと言われていて、準備中。

羽田・渋谷など都内連携、札幌・名古屋・京都・大阪・福岡・那覇など他都市との連携を進めハブ化したい。韓国コンテンツ振興院やスペイン・カタルーニャ州などコンテンツに熱心な政府・自治体とも協定を結び、国際都市連携も進める。上海とも話を進めているところ。

コロナで最も打撃を受けているのがライブエンタメ業界。CiPはステイトメントをまとめ、政官界へのお願いにも動いている。地方からのコンテンツ発信を強化する仕組み、5GAR/VR等最新技術活用への支援などを内容とするもの。音楽業界によるファンド設立などの施策に関しても協力申し上げている。以上を踏まえて、お願いしたいことが5点ある。

DX

現政権の第一テーマ。コンテンツのデジタル対応は不十分。ライブ配信、世界展開、さらにはAIやデータの対応が急務。税制などによる支援・誘導を図りたい。

教育

ソフトパワー、クールジャパンの基盤は、自由な環境で、みんなが参加してつくりあげる、クリエイテイブな文化状況。国民の創造性を維持して高める教育が土台。

今年、一気に小中学校でPC一人一台が実現する。プログラミング学習で創作活動を充実するといった施策を進めてもらいたい。

中核組織

クールジャパン施策を進める官民連携の中核組織を作りたい。

これは政府の会議でも何度もくりかえし提案され、今般の知財計画にも記載されたもの。民間は受け皿を用意するので、これくらいは実行しよう。

文化省

デジタル庁は重要だが、行政IT化が柱。より重要なのはITと知財の政策の融合。

最近、経団連もデジタル省、情報経済文化省を提言。デジタルは手段であり、目的は文化。私もそういう強力な、これからの国のかたちを代表する省の設立に賛成する。核は文化なので、名前は文化省。

五輪 万博

日本ほどチャンスをいただいている国はない。ソフトパワーのプロモーション場として、ハイブリッドで集中的に活用する。

日本は世界から創造的と見られているが、自らをそう評価していない。自己肯定感が低い。空気の問題。空気を換えたい。政治リーダーシップによるご指導をお願いする。

議員から、デジタル教育でソフトパワーをどう強化するかという質問。

デジタルは創造・表現のツール。国算理社より音楽図工に効きます。その教育の厚みがソフトパワーの源です。音楽図工の授業時間倍増を!

と答えておきました。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2021年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。