コロナ制限措置の規制緩和を始めた国々と東京都の比較

加藤 完司

今月になって日経新聞にドイツとアメリカでの規制緩和の報道があった。

ドイツのメルケル首相は3日、新型コロナウイルスを封じ込めるための制限措置の緩和を段階的に進めていく方針を発表した。8日から書店などの営業を認め、さらに人口10万人あたり7日間の感染者数が50人(註:一日平均約7人)を下回れば、ほかの商店の営業も地域ごとに認めていく。ドイツが重視する人口10万人あたり7日間累計の新規感染者数は一時、200人(註:同約30人)近くまで増えていたが、足元では60人(註:同約9人)台に下がっていた。この値が2週間以上大きく悪化しなければ、さらにレストランの屋外営業なども認める。感染者数が減り続けるか安定していれば、経済を徐々に正常化していく仕組みだ。

メルケル氏は記者会見で、感染の再拡大を避けながら経済の再開を進めることが「政治の課題だ」と語ったそうだ。当たり前のことだけど。

テキサス州など米国の各州で、新型コロナウイルス対策として導入した行動制限を緩和する動きが相次いでいる。ミシシッピ州やテキサス州ではマスクの着用義務の撤廃を打ち出した。(中略)米CNNによると、マスクの着用義務がない州は13州に上っている。飲食店や映画館、娯楽施設などでの制限の緩和も広がる。マサチューセッツ州では1日から飲食店の店内飲食での客数制限をなくし、店内で音楽演奏もできるようになった。

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そこで気になるのが、東京都と較べてテキサス州やマサチューセッツ州、ドイツでの感染状況はどのようなものか?という素朴な疑問。データの出典は下記の通り。

  • テキサス州: Texas Department of State Health Services (DSHS)HP
  • マサチューセッツ州:Massachusetts Department of Public Health (DPH)HP
  • ドイツ::JHU特設ページ
  • 東京:東京都HP

まず感染者数の推移。日々の変動が大きく図が煩雑になるので7日移動平均で示した。細かなピークや谷がなくなるほか、全体の印象として1週間実際より遅れた感じになるが、相対的な比較においては問題ない。なお図示した期間は煩雑さを避けるため、第一波過ぎの5月1日から3月4日までの約10か月間である。

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さてドイツと米国の2州、今年になって感染者数が急減、世界中で急減しているので当然ではある。興味深いことに1月の東京のピークと同時期に、他国も練習を重ねたアーティスティックスイミングのようにピークを付け急減している。ピークの値はドイツは25,000人、テキサス州は19,000人ほどに対し、マサチューセッツ州は5,000人、東京は2,000人と少ないが、これには人口の差の影響が大きい。

そこで、人口10万人当りにノーマライズして比較する。人口8,300万人のドイツはヨーロッパの中でも感染者が少ない国とあって10万人当りではピークで30人ぐらいに対し、テキサス州とマサチューセッツ州は規制解除という優等生であってもアメリカだけあってピーク時はそれぞれ65人、90人といいうレベルであった。ちなみに東京はピーク時でも10人ちょっと。

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その後現在はすべて収束期にあるわけだが、テキサス州やマサチューセッツ州の規制緩和時期の感染者数は東京のピーク時の感染者数を上回っている。ドイツの現状も東京のピーク時のレベルに近い。ドイツでは7人レベルであれば規制を徐々に緩和していく方針に対し、現在の緊急事態宣言下の東京の感染レベルは1-2人である。いずれの国、州においては、東京都の感染のピーク時でさえも規制緩和検討開始レベルというのが実態だった。

さらに重要な背景として、日本はアフリカや東南アジア諸国と同様に、欧米でのコロナワクチンの接種完了状態ような感染レベルの低い国という1年間の実績がある。すなわち、日本では欧米並みの感染拡大の懸念は本質的に小さい。なおこの背景は、以前証明したように日本がかつては結核蔓延国であったためだと思っている。

他紙は知らないが日経新聞が規制緩和を始めた国や州のニュースを報じるのは立派。ただし毎度のことながら視野は蟻のように日本だけ、世界を俯瞰すれば日本の状況に対する認識も大きく異なると思われる。それが正確で公正な報道というものだろう。

加藤完司(元フェロー、エンジニア)理工学部大学院卒、石油開発企業にてプロジェクト評価、技術評価などに従事、二度の海外駐在など海外経験豊富。石油関係の発表論文多数。