日本は香港問題で中国への制裁を:アメリカ研究機関が提言(古森 義久)

顧問・麗澤大学特別教授   古森義久

アメリカの大手研究機関「戦略国際問題研究所(CSIS)」は2月26日、中国政府の香港での民主主義や自由の弾圧に対して日本政府が抗議の行動を起こし、中国側への具体的な制裁措置までをとるべきだとする意見を発表した。

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この意見は同研究所が定期的に公表する「日本を討論する」という議論のサイトで明らかにされた。同意見は「日本は香港問題で(中国政府への)圧力を増すべきだ)」と題されていた。

この意見はCSISが委嘱した国際基督教大学の国際関係専門のスティーブン・ナギ上級准教授の見解を主体としていた。

その見解は中国政府の最近の香港に対する一連の弾圧行動に対して日本はアメリカなど他の民主主義諸国に比べて、積極的な抗議をみせていないという不満の表明でもあった。

CSISはワシントンでも最大級の研究機関で、超党派に近く、民主党のバイデン政権とも良好な関係にある。このため同研究所の活動や発表はバイデン政権からも注目されており、今回の日本への不満の表明がバイデン政権の認識に重なるという可能性も否定できない。

CSISのこの意見は以下の骨子だった。

日本は「自由で開かれたインド太平洋」構想に基づき、香港の自由や民主主義の保護のために日本自身の外交的、経済的な資産を動員するべきだ。香港の統治の透明性を求めるべきだ。

日本にとっては香港のこれまでの独立した司法、自由な報道、透明で法の支配に基づく法律の枠組みこそが日本の香港や中国本土への投資活動にとって、安定し、透明な基盤を与えてきたのだ。

日本政府は香港での出来事に対して積極的な言動はとっていない。日本は2020年7月のG7外相会談での香港に関する共同声明には加わったが、それ以外には政府としてほとんどなんの言動もとっていない。

同意見はまず日本に関するこの主題での全体の主張と背景を以上のようにまとめていた。そして更なる詳細や具体的諸点について次のように述べていた。

日本の国会の超党派のグループが香港の民主活動の周庭氏らが2020年12月に拘束されたときに中国政府への抗議の声明を出したが、この種の声明は日本政府の政策にはほとんど影響はなかった。

日本社会は香港問題への関心や懸念を最近は増してきたようで、香港への中国政府の介入を含めての関連テーマについての書籍や調査や討論の活動も広まってきた。だがこの種の民間の動きは日本政府の政策に好ましい影響を及ぼしていない。

日本の国益は「自由で開かれたインド太平洋」構想に緊密に合致しており、香港で「法の支配」に基づく統治が保たれることはその構想の基本ともなる。この観点からも日本政府は中国政府に対して香港に関する中英共同声明に違反する抑圧行為は日本の香港への経済関与を破壊し、中国本土への日本の投資を大幅に減らすことになるという点を提起して、明確に抗議を伝えるべきだ。

日本の投資が中国本土から他の地域へと移ることは、いま中国経済の構造的な不況に悩む中国共産党政権の最高指導者たちにとっても、懸念となる。

以上のような論理を展開する同「意見」は結論として日本の菅首相や政府により具体的な行動の提起を明確にしていた。

菅義偉首相は香港での出来事への懸念こそ表明したが、2020年11月の中国の王毅外相の訪日の際の接触では香港問題を強固に提起し、議論した形跡はない。日本政府としての香港問題での中国政府への抗議はまずないと言える。

日本はアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど他の民主主義諸国とともに中国政府が国際誓約を破って香港の自由や自立を抑圧する措置をとったことに共同での制裁措置をとるべきだ。その制裁は中国側で香港での自由の弾圧措置にかかわった個人に対しても加えられねばならない。

こうした意見は今のアメリカからの最新の日本へのメッセージとして注目する必要があるだろう。この意見は菅政権の中国への姿勢に根幹的な疑問を提起しているとも言えるからだ。

古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2021年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。