「自粛の強者」に思い出して欲しい「アリとキリギリス」

東京都の緊急事態宣言が21日に解除される方向と報じられています。しかし、世論調査を見ると、緊急事態宣言の再延長を望む人の比率の方が高いという結果も出ています。私の周りには、緊急事態宣言の再延長に賛成する人はほとんどいないので、とても意外な結果です。

再延長に賛成か反対かを年齢や職業別に分析すると、年齢が高い人ほど延長に賛成。また、専業主婦、会社員、パートアルバイトの方が、学生や自営業の人に比べ、再延長に賛成する傾向が高いという結果になるようです。

再延長に賛成という人たちは、緊急事態宣言であまり痛みを感じない(あるいは逆にメリットを感じる)人が多く、BLOGOSに掲載されているこの記事では、このような人たちを「自粛の強者」と呼んでいます。

会社員とその配偶者である専業主婦は、勤務先が経営不振になっても、短期的には給与水準の低下にはつながらず、直接的な影響は受けません。また、高齢者も年金からの収入には変化はなく、経済的なダメージが小さいといえます。

会社員の中には、緊急事態宣言により在宅勤務の比率を高めるよう会社から要請され、通勤の負担がなくなったことを歓迎する人もいます。特に子供のいる家庭では、自宅で子供の世話ができるようになり、生活の負担が軽減されるメリットがありそうです。緊急事態宣言が解除され、オフィスに通勤せざるを得なくなると、子供の世話と通勤によって時間的な余裕が再び無くなってしまうのです。

一方で「自粛の弱者」は、学生、自営業などの人たちです。飲食店の営業自粛により、学生のアルバイトは激減し、自営業も業態によっては売り上げを落とし、大きな経済的ダメージとなっています。

「自粛の強者」と思っている会社員やその配偶者である専業主婦、そして年金生活者ですが、果たして本当にそうなのでしょうか。

緊急事態宣言とそれに伴う自粛によって落ち込んだ経済のテコ入れには、コストがかかります。財政支出は膨らむ一方ですが、これはタダではありません。いずれ税金の引き上げによって自分に戻ってくることになります。

安定した給与を受け取っている会社員も、今後、勤務先の経営状態の悪化が継続すれば、将来の雇用不安や給与水準の低下に跳ね返ってきます。

また、金融緩和と財政支出によって今後インフレになれば、年金生活者の実質的な収入は減少し、経済的なダメージにつながります。

緊急事態宣言による目先のメリットを享受している人を見ると、イソップ物語の「アリとキリギリス」を思い出します。

手前でオイシイと思って受け取ったもののツケは、後から必ず自分で返さなければならない。「フリーランチ(=タダのご飯)」はないという資本主義経済の大原則を忘れてはいけません。


編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2021年3月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。