北米でのアジア系に対するヘイトクライム

ヘイトクライム、つまり特定の属性(人種、性別、宗教…)に対する差別行為がここにきて北米で再び増えてきていると報じられています。アメリカではアジア系へのヘイトクライムは20年3月から12月までの間に約3000件が報告されているとされますが、カナダではほぼ同時期に800件あったとされます。

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このヘイトクライムの内容や報告数の計上方法はカナダとアメリカでは違うので一概には比較できないのですが、人口数が10倍のアメリカとカナダの差を単純比較するとカナダの方が悪そうだ、ということになります。ちなみに私は経験したことはありません。このところ、人が増えてきて電車に乗っていても日中ならやや安心感がありますが、夜の電車は6両全部の車両に両手で足りるぐらいしか人が乗っていないこともあり、そういう時に限ってかなり怪しげな乗客がいるもので女性ならちょっと怖いと感じるのではないかと思います。

今般のヘイトクライムの引き金はトランプ氏の「武漢ウィルス」という特定表現にあると多くのメディアが主張しています。そうかもしれないし、やや誇張しているかもしれません。というのは英国で変異ウィルスが発生したのに英国を揶揄する表現は聞きません。

そもそも白人同士で人種差別的な行為をするのは一部のエリアで部分的衝突はあるものの主要国同士ではあまりありません。カナダ人がアメリカ人を軽く軽蔑しているとか、英国人とフランス人の感性の違いからくるすれ違いといったものもありますが、人種差別問題として大々的な問題に発展することはありません。(戦時中のユダヤ迫害は宗教的背景でヘイトクラムではなく政治的組織的背景を持つジェノサイドであったと理解しています。)

とすれば「武漢ウィルス」=「中国」=「黄色人種全般への嫌がらせ」ということかもしれません。これは歴史的にアメリカもカナダも日本人や中国人を迫害した戦前、戦時中の行為を政府レベルで認め、謝罪もしています。が、今でもそれが止まらないのは白人社会における潜在的意識の問題なのでしょうか。

今回はそもそも通商貿易問題でアメリカと中国が激しくやりあっていたさなかでのコロナ発生だったこと、中国はいち早くコロナ対策を行い、経済の立ち直りが主要国では一番早かったことなどで怨嗟の引き金になったことはあるかもしれません。カナダについてはファーウェイの副会長がバンクーバーで拘留され、裁判の進捗発表のたびに中国側が批判的な声明を出します。一方、中国ではカナダ人を拘束しており、人質外交としてカナダ内では強烈な批判のネタとなり、カナダと中国の外交関係は冷え切っています。

つまりアメリカもカナダも政治や通商レベルでの問題発生がアジア人へのヘイトクライムにつながっているわけです。ただ、こちらに30年近く住んで思う根本的な問題は白人の知的地位下落が見て取れ、アジア系が上位を押さえていることもあると思います。例えばやや古い統計ですが、4年制大学の卒業を6年以内で終えた人種ごとの集計ではアジア系74%、白人64%、ヒスパニック54%、黒人40%とあり、学業ではアジア系は概ね優秀であるようにみえます。

またそれ以上に移民システムに問題があります。カナダは人口の1%以上を毎年移民として受け入れるわけですが、知的優秀ないし技術的能力を持つ比較的若い人であることが要件なのでこのやり方を継続すれば人種間の能力構成がいびつになるのは自明の理なのです。言い換えると白人社会である北米での移民権取得にはカネや名声がある家庭で優秀な成績、言葉もできる非白人系が積極的に受け入れられやすいともいえなくもないのです。

それでも白人が主導権を握る経済運営や会社経営、政治家もアジア系などがじわじわと増えている(除く日本人)おり、その存在感が増していることは事実です。一方、街中のホームレスでアジア系を見ることはほとんどありません。この辺りのじわっと寄せる差がヘイトクライムのストレスになっているように感じるのです。

もう一つは白人は一般的にガタイが大きく、アジア人やヒスパニックは小さいことが挙げられます。この身体的差異は黒人がアジア人にヘイトクライムするケースが見られることからも無視できない重要なエレメントです。

北米の白人にとって日本人も中国人も韓国人も区別はつきにくいとされます。最近は日本人の比率が減っているので一目で私を日本人と見抜いたケースは最近あまりなく、韓国人や中国人と間違われ、白人がわざわざ私に「アニョハセヨ」とか「ニーハオ」というのです。日本人と知ると態度が変わる人が多いのも事実でヘイトクライムになりそうなとき、日本人であることを示すことはもしかしたら防御策になるのかもしれません。

問題の根源は白人社会の没落、これが根本理由の可能性は大いにあると思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年3月16日の記事より転載させていただきました。