現時点で、私たちはデジタル社会についてどんなことがわかっているのでしょうか。私たちの心の健康、睡眠や集中力への影響、子どもや若者への影響、学校教育への影響・・・。スマートフォンは依存性のあるものだということです。そして依存しすぎると、能力の低下や睡眠障害なども引き起こされます。これは私たちも体験的に分かっているのではないでしょうか。
「スマホ脳」・・・ちょっとあおり気味のタイトルですが、原題は、SKÄRMHJÄRNANで、Skärm=スクリーンhjärnan=脳という意味です。スマホが現代の人間にどのような影響を与えているかを、精神科医のAndersHansen(アンデシュ・ハンセン)先生が、これまでの研究でわかったことをわかりやすく述べています。
まだまだわからないことが多い分野ですが、「脳トレ」や「おもしろ脳科学」のような突飛なことを言っているわけではないので、心に留めておいて損はないと思います。
SNS企業は報酬系を操る
スマホはドラッグと同じように依存性があります。これは比喩ではなく、スマホを触ることにより実際にドーパミンが大量に出るそうです。
SNSの開発者は、人間の報酬システムを詳しく研究し、脳が不確かな結果を偏愛していることや、どのくらいの頻度が効果的なのかを、ちゃんとわかっている。そのアプリが極力効果的に脳の報酬システムを直撃し、最大限の依存性を実現するためにだ。
これはマズロー先生の言う承認欲求などという生易しいものではなく、生存するために必要な本能に根差した欲求なので、ちょっとやそっとの意思の力では拒絶できません。物理的にスマホを遠ざけるしか対策はありません。私のスマホは機内モードにしていることが多いですが、手元に置いて置くだけでそわそわしてしまうそうです。
ドーパミンの役割
スマホの最大の特徴は、ドーパミンの量を増やすことのようです。ドーパミンの最も重要な役目は、何に集中するかを選択させ行動を促すことです。また、満足感を作り出すエンドルフィンが大きな役割を果たしています。これらの物質をコントロールするのが、スマホの特徴だそうです。それが、チャットの通知が届くとスマホを見たい衝動にかられる理由です。スマホは、これらの報酬システムのメカニズムを直接操作してしまいます。みなさんは、スマホに操作されているなあと思うことないですか?私は多々あります。
ICT企業のトップは子供にスマホを与えない
アップル社の創業者スティーブ・ジョブズさんが、自分の子どもたちへのICT機器の使用には慎重になっていたというのは有名な話ですね。動物である人間の集中力は限られているので、それをICT機器で費やすのはもったいないと考えていたのでしょう。
たしかに、図書館やカフェでよく、参考書や赤本のわきにスマホを置いている学生さんを見ます。人間の適応能力ってすごいなと思っていましたが、それは間違った分析だったのかもしれません。
研究が追いつかない
デジタルの影響が確実に分かるのは、数年先になってしまいます。
デジタルの発展のほうが、その影響の研究よりも速いわけだ。今現在からのデジタルライフの影響を知りたければ、2023年まで待つしかない。ただ、その頃にはテクノロジーはさらに発展している。
現時点でスマホやタブレット端末をお子さんの手から無理矢理取り上げなくてはならない状況は、かなり深刻かもしれません。そして、その影響がわかるのは、お子さんが十分大きくなってからです。
デジタル化が進む今、人間は自らをどんな危険にさらしているか
この10年の人類の行動変容、つまりコミュニケーションや互いを比べあう手段が変わったのは、あまりに大きな変化で、想像以上に深刻な影響をもたらすかもしれない。心の不調で受診する人が、ここ10年、特に若い人の間で著しく増加している。その一因は、一気にデジタル化したライフスタイルにあるのではないか?
人間の脳はデジタル社会に適応していません。現在、大人は1日に4時間以上をスマホに費やしているそうです。10代の若者でも4~5時間以上になります。この行動様式の変化は、人類史上最速のものです。それにはどんな影響があるのか、まだよくわかっていないので、今は予防策をとっておくことが大切なのではないでしょうか。
ここ10年くらいの学校現場を見ていると、子どもたちがみょうにソワソワしていることが多くなっているような気がします。スマホやタブレットのせいとは言い切れませんが、幼児に動画を見せたり、親御さんがお子さんがいるのにスマホばかり見ていたりする光景を見ると、「子どもの発達的に、大丈夫なのかなあ」と素人ながらちょっと心配になります。
解決策はわりとシンプル
スマホを使い過ぎると気が散り、よく眠れなくなりストレスを感じます。その解決策はいたってシンプルです。
それはちょっと激しめの有酸素運動をすることです。身体を動かすことで集中力が高まり、ストレスへの耐性がつき、記憶も強化されることはわかっています。これはアンデシュ・ハンセン先生の前著「一流の頭脳(現代BRAIN)」でも詳細に分析されて推奨されていることです。
ジョギングのような心拍数を上げる有酸素運動は、精神疾患の手当としても有効のようです。また、スウェーデンの教育委員会の調査によると、運動が学力をもっとも向上させる要因になったそうです。「一流の頭脳」は邦題がちょっとへんですが、一流の人の話をしているわけではなく、われわれ一般人の頭脳や学力の向上のしくみを丁寧に説明してくれている良書だと思います。
なんとなく不調を感じている人へのアドバイス
「スマホ脳」に書かれていることは、変化のスピードが増しているこの時代の、よく眠りたい人、元気になりたい人、集中力を高めたい人、現代のデジタルライフから受ける影響を最小限にとどめたい人、そんな人たちへのアドバイスです。
「この研究成果はほんとに信用できるの?」とお思いの方も多いと思いますが、私たちに提案されていることは、スマホを物理的に遠ざけて日常的に運動するだけなのだから、まちがっていたとしても損はないと思います。
私も仕事がないときは、なるべくスマホを持ち歩かないようにしたいと思います。