親の言うことを素直に聞いて育つ子供は「時代遅れ」になる

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

Liderina/iStock

「子供が言うことを聞いてくれず、困っています」

ネットを彷徨っていると、そんな悩み相談を寄せる記事や書き込みへと漂着することがある。2児の父親の立場として子育ての話には強い関心があるので、そうした悩み相談をじっくり読むことがある。同じ親として、子供にあれこれと意見を言ってしまう親心は理解できるつもりだ。しかし、それをすることは本当に子供のためになるのだろうか?

親の言うことを素直に聞く子供を育てる、それは一体誰のためなのか?親のエゴになっていないのだろうか?自戒の念を込めて論考したい。

10年以上前のアプリを最新機器にインストールする?

子育てをする親世代は、だいたい30年前後に世の中に誕生、成長を経て、今を迎えていることになる。人の「常識」や「世界観」は、概ね20歳前後で形成される。つまり、親世代は今から10年ほど前に誕生した価値観や常識を持って生きていると表現できるだろう。

そして親世代の常識や世界観を、子供世代に教え込む行為は「現代のPC本体へ親世代のソフトをインストールするようなもの」とたとえられないだろうか。人間の「パーソナリティ」と「肉体」の関係は、PCにおける「OSやアプリ」と「ハードウェア本体」というメタファーを用いて考えることができるだろう。

もちろん、親世代の常識のすべてではない。親も子供に教える意見は選別するだろう。「OSをインストールするようなもの」は少々言いすぎかもしれない。「古いアプリをインストールする」という表現の方が正確だろうか。

いずれにせよ、古いソフトウェアを新しいデバイスにインストールすることの是非が問われる話だ。そして多くの場合、その有用性は否定されるだろう。

「昔の勝ちパターン」は現代に通用しない

筆者は20歳前後の時期を、コールセンター派遣スタッフとして5年ほど身を置いていた。当時は周囲の30代、40代のスタッフと比べて非常に若かったため、かわいがってもらい、彼らから様々な常識を教わった。中には自分の親と同世代のスタッフもおり、特に色々と教わった経験がある。

その頃に教えてもらった、「これぞ人生の勝ちパターン」なるものがいくつかあった。

  • 田園調布のような一等地に一戸建てを購入し、大企業に務める。
  • 会社では出世をして高収入を得る。
  • いざという時に助け合うためにも、人間関係はたくさん持っておいた方がいい。

概ね、こういった話だったと記憶している。目上の人からの話は興味深かったし、尊敬に値する人物もいた。だが、こうした親世代の「昔の勝ちパターン」を若い世代が聞いて、本当に有用であるかは疑問が残る。

特に昨今のコロナがもたらしたニューノーマルにおいては、こうした常識は次々とひっくり返ってきている。リモートワークの導入拡大により、「住む場所に縛られない」という新たなスタイルが受け入れられつつある。また、少子高齢化、人口減少、南海トラフ巨大地震発生可能性の時代においては、一戸建ては資産ではなく、むしろ負債計上すべき科目になるケースも存在する。さらに、大企業勤務とて、収入源が1つでは安泰とされない時代に差し掛かろうとしている。人間関係も「知人の数の多さ」を誇る時代は、もう過去の常識だろう。

昔の勝ちパターンとされた生存戦略は、現代には通用しないものも少なくない。子供にとって親の影響力はまさしく絶大な力があるため、同じ屋根の下で暮らす上で今や通用しない古い常識を入れられてしまうことは、子供にとってはネガティブな影響を受ける可能性は否定できない。

親の言うことを何でも聞く子は「時代遅れ」になる

時々、10年、いや20年もの長きに渡って、司法試験や医学部浪人をやっている人物が取り沙汰されることがある。筆者も過去の記事で「元司法浪人無職童貞職歴無しブログ主を救う方法はあるのか」という原稿を書いたことがある。時には「青春時代を勉強で塗りつぶされた」と逆恨みした子供が、親を手に掛ける痛ましい事件も起きている。こうした事例も、親が子供の人生のレールを敷設した結果と見ることができないだろうか。

子供にあれこれと意見を言ってしまう親心は理解できる。だが、そうすべきでないと感じる。親としては「子供が人生を有利に歩むことができれば」と考えるのだが、それが逆に「子供を時代遅れ」にさせてしまう危険性もはらむと思うのだ。

そういう意味で、親は子供に教えすぎてはいけないと感じる。軽い気持ちで与える行為が、子供にとって新しき世界では通用しない、古い常識をインストールされてしまうことになるからだ。

教えるべきは「普遍の真理」だけ

「親は子供に意見を言うな」と展開してきたが、同時に教えるべきこともあると考える。それは時代を超えて通用する「普遍の真理」である。

アカデミックな分野については、陳腐化することはない。数学的思考力や外国語学習は、何十年時が経っても我が身を助けてくれるだろう。また、人間関係を構築する上での心理学を用いた対人スキル、さらにビジネスを営む上でのマーケティングを学ぶ有用性や、コピーライティングなども役に立ってくれる公算は大きい(ただしこの場合も、手法は陳腐化することに留意が必要だろう)。

ちなみに筆者は子供に「勉強することの面白さ」に触れさせたい。勉強することの有用性や楽しさは時代の変化を受けることがない。もとい、変化の速いこれからの時代にますますその重要性は高まるだろう。夢中になるかは本人次第なので、うまくハマるかはわからない。だが、外界からの刺激がきっかけで、好奇心を育てることができれば良いと思っている。だがこの場合でも、あくまで親の役割は「きっかけを与えること」に留めるべきだと思うのだ。

「親の心子知らず」

「生みの親より育ての親」

親子の関係にまつわることわざは数多く存在するが、令和の変化が速い時代においては「子は親の話は聞いても、言うことを鵜呑みにしてはならぬ」の追加を検討するべき時が来ているのではないだろうか。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。