コロナ禍で犯罪もホームオフィスで:オーストリア「2020年犯罪統計」

中国発の新型コロナウイルスが欧州に感染を拡大して以来、犯罪の世界でも大きな変化が見られる。オーストリア内務省が18日、公表した「2020年犯罪統計」によると、古典的な財産犯罪、家宅侵入窃盗や強盗、車両窃盗が激減する一方、サイバー犯罪が急増してきた。犯罪問題専門家は、「犯罪組織はいち早くホームオフィスを導入してきた。それに伴い、犯罪統計にも大きな変化が見られる」と指摘、古典的な鶏泥棒型犯罪からデジタル犯罪にその主役が変わってきたという。

▲「2020年犯罪統計」を公表するネハンマー内相(2021年3月18日、オーストリア内務省公式サイトから)

オーストリア連邦犯罪局(BK)のアンドレアス・ホルツァー局長によると、2020年犯罪総件数は43万3811件で前年比で11.3%減、特に財産犯罪が減少する一方、インターネットが絡んだ犯罪が前年度比で26%増と「爆発的に増加してきた」という。新型コロナ感染問題が犯罪世界に大きな影を投じている(検挙率は54.2%で前年比より上昇)。

ホルツァー局長は、「2011年から19年の間、犯罪総件数は約5万1000件減少した。そしてコロナ感染が広がった昨年1年間で5万5000件の犯罪が減少した。すなわち、過去10年間で10万件以上の犯罪件数が減ったことになる」と説明。具体的には、インターネット犯罪以外の犯罪はいずれも減少した。財産犯罪は12万8111件で前年比で3万5000件減、21.9%減を記録した。車両窃盗、家宅侵入窃盗犯罪も急減した。「昨年4月、5月の両月には家宅侵入窃盗犯罪がゼロだった。昔なら考えられないことだ」という。当然かもしれない。大多数の国民は新型コロナ感染防止のためのロックダウン(都市封鎖)で自宅に閉じこもっていた月だ。窃盗犯の名人といっても人がいる家に侵入して、金銭や高価なものを盗むという離れ業は出来ないだろう。

興味深い点は、コロナ規制で外出禁止、ソーシャル・ディスタンスが叫ばれたこともあって、スリ件数は初めて1万件を割ったことだ。10年前には3万7000件を超えていた。ロックダウンで市内に人は少ないうえ、2mのディスタンスが求められ、スーパーでも相手に接近できないから、スリの名人もお手上げといった状況だろう。

また暴力犯罪も減少、殺人は昨年43件で54人の犠牲者だった。ただし、ロックダウンで家族が一日中自宅にいることもあって、自宅内での暴力事件は増えた。夫婦喧嘩や家族騒動だ。

ネハンマー内相は同日の記者会見で、「犯罪の世界も大きく変わった。昨年の犯罪傾向は過去の年とは比較できない」と強調、「コロナウイルスは警察官の仕事も大きく変えた。国境警備のほか、域内の警備管理が大きな役割となった」という。例えば、クルツ政権が実施するコロナ規制に反対する抗議デモ対策から、コロナ規制違反者への監視などが新たに出てきたわけだ。

コロナ規制が長期化することで、国民の間でコロナ疲れが見られ、規制に反対する国民が警察官に暴力を振るうといった状況も見られる。連邦首相府がある英雄広場周辺でコロナ規制抗議デモが開催され、数万人がマスクを着けず結集した時、治安関係者はマスクをしながら規制違反者を取り締まらなければならない。例えば、同国最西部のフォアアールベルク州では警察官への暴力事件が増えている。

最大の懸念はインターネット犯罪の急増だ。昨年3万5915件のオンライン犯罪が登録された。前年比で26.3%の急増だ。その中でも詐欺事件が1万8780件と最も多く、児童関連の性犯罪1702件、児童ポルノ画像売買なども増えている。また、新型コロナの拡大で不法クレジットや偽造品がオンラインで売買されている。21世紀の今日、どのような犯罪でもインターネットが絡まない犯罪はない。そのため、ITに通じた専門家の育成が急務となってきているという。

オランダのハーグに本部を置く欧州刑事警察機構(ユーロポール)は昨年3月27日、「欧州に新型コロナウイルスの感染が拡大し、多くの犠牲者が出てきて以降、新型コロナへの国民の不安、恐れを悪用した犯罪が急増してきた」と警告する報告書を公表した。それによれば「通常の犯罪件数が急減する一方、新型肺炎に効果的という宣伝文句で治療薬、薬品の偽造品取引、サイバー犯罪が増えてきた」という。オーストリア内務省が公表した昨年の犯罪統計はそれを裏付けているわけだ(「新型コロナが変えた欧州の『犯罪図』」2020年3月29日参考)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年3月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。