欧州連合(EU)は中国の新疆ウイグル自治区での人権弾圧に抗議し、対中制裁を実施することを決めた。ロイター通信によると、中国の4個人と1団体に対し、EUへの渡航禁止や資産凍結といった制裁が科せられる。EUの対中制裁は1989年の天安門事件以来のものだ。EUは22日外相会議で正式に承認する予定だ。中国側の激しい反発が予想されている。
ちなみに、EU27カ国は昨年12月8日、人権侵害を行った個人・団体を制裁対象とし、EUへの渡航禁止措置や資産凍結などを行う経済制裁法を施行させた。同内容は欧州版「マグニツキー法」と呼ばれている。同経済制裁は中国を名指しにはしていない。今回は中国のウイグル人への人権弾圧への対中制裁だ。
それにしてもEUの対応は遅すぎたが、中国共産党政権の人権弾圧をこれ以上黙認しない、という決意から出てきたものとすれば、それなりに評価すべきだろう。中国共産党政権のウイグル人への弾圧はポンぺオ前米国務長官が「ジェノサイド」(集団虐殺)と指摘した通り、もはや看過できないものがある。100万人以上のウイグル人が自称再教育施設、職業訓練所に収容されている。実際は強制収容所だ。そこでは暴行は日常茶飯事であり、若い女性は強制的に避妊手術を受けさせられ、子供が生まれないようにさせられている。それだけではない。ウイグル人関係者によると、若いウイグル人から臓器を摘出し、不法な移植ビジネスの臓器提供者にさせられているというのだ(「移植臓器は新疆ウイグル自治区から」2019年1月12日参考)。
ウイグル人は中国56民族の中の一民族だが、その現状は哀れだ。ウイグル人が住む新疆ウイグル自治区にあるロブノールは旧ソ連カザフスタンのセミパラチンスク核実験場と共に核実験場として知られている。核実験で放出される放射能の影響で同自治区では多くの奇形児、障害児が生まれている。世界は長い間、その事実を静観してきた。放射能の影響は世代を超えて広がっているのだ。ウイグル人への弾圧は21世紀になって始まったわけではない。
中国共産党政権の少数民族への弾圧はウイグル人だけではない。チベット人、モンゴル人への人権弾圧も無視できない。固有の文化、言語を抹殺する同化政策が実施されてきた。中国共産党政権は1950年、チベット地域に侵入後、その支配下に置き、同化政策を行ってきた。中国の同化政策に抗議して、2011年から15年までに137人のチベット人が抗議の焼身自殺をした。彼らはチベット仏教僧だけではなく、一般のチベット人も含まれていた。
特に、チベット北東部で焼身自殺が多い。多くのチベット人は習近平国家主席時代に入れば少しは良くなるだろうと期待していたが、実際は弾圧は強化されてきたのだ。中国政府は地下資源が豊かなチベット地域を益々重要視し、その鉱物開発のため、高速道路や鉄道を敷く一方、約200万人の遊牧民を強制的に高層住宅地に移住させているという報告がある(「137人のチベット人が焼身自殺した」2015年5月13日参考)。
法輪功メンバーへの弾圧も激しい。中国国内で1990年代、気功集団「法輪功」が急増。1999年の段階で1億人を超えていた。法輪功の増加を恐れた江沢民国家主席(当時)は1999年、法輪功を壊滅する目的で「610公室」を創設した。旧ソ連時代のKGB(国家保安委員会)のような組織だ。法輪功メンバーの取締りを目的とした専門機関だ。
法輪功メンバーへの弾圧は非情だ。メンバーの臓器を生きたまま取り出し、共産党老幹部に移植したり、一部の富豪者に高額で売っている。2000年から08年の間で法輪功メンバー約6万人が臓器を摘出された後、放り出されて死去したというデータがある。中国の不法臓器摘出の実態を報告したカナダ元国会議員のデビッド・キルガ―氏は、「臓器摘出は中国で大きなビジネスだ。政府関係者はそれに関与している」と述べ、法輪功メンバーの家族が遺体を引き取った際、遺体には腎臓などの臓器が欠けていたという(「法輪功メンバーから臓器摘出」2006年11月23日参考)。
習近平主席が政権を掌握して以来、キリスト教を含む宗教への弾圧は強められてきた。宗教を抹殺できないことを知った習主席は「宗教の中国化」に乗り出してきているのだ。「宗教の中国化」とは、宗教を完全に撲滅することは難しいと判断し、宗教を中国共産党の指導の下、中国化すること(同化政策)が狙いだ。その実例は新疆ウイグル自治区(イスラム教)で実行中だ。キリスト教会に対しては官製聖職者組織「愛国協会」を通じて、キリスト教会の中国化を進めている、といった具合だ。習主席は、「共産党員は不屈のマルクス主義無神論者でなければならない。外部からの影響を退けなければならない」と強調する一方、「宗教者は共産党政権の指令に忠実であるべきだ」と警告している(「習近平主席の狙いは『宗教の中国化』」2020年6月12日参考)。
中国共産党政権は過去、国際社会からの人権弾圧、宗教弾圧に対する批判には「内政干渉だ」と一蹴してきたが、海外中国メディア「大紀元」によると、中国は「人権」について新しい定義(解釈)を明らかにしている。中国の王毅外相は先月、開催された国連人権理事会(UNHRC)第46回会議でウイグル自治区の人権弾圧批判に対し、「人権とはまず経済発展と安保の観点から考えるべきで、民主主義と自由に焦点を合わせるのは最後である」(大紀元)と説明したという。換言すれば、「国が安定し、国民が3食を堪能できるまでは個々の国民の人権(自由)は後回し」ということになる。これは、軍事大国、宇宙開発国を自任する中国が「人権」分野では途上国レベルに留まると表明したことになる。
日本政府は1979年から途上国の開発支援を目的とした対中ODA(政府開発援助)を実施し、中国が経済大国となった後も継続してきた。安倍首相の2018年10月の訪中の際になってようやく対中ODAの再考が実施された。具体的には、対中ODAは2018年度をもって新規採択を終了し,採択済の複数年度の継続案件については2021年度末をもって全て終了し、2022年3月で完全に終了することになった。すなわち、日本政府は40年以上、中国共産党政権を支援してきたことになるわけだ。日本は中国の大国化、覇権主義に責任があるのだ。
日本の対中ODAから学ぶべきだ。中国は経済大国を誇る一方、必要ならば「開発途上国」という看板を外さないのだ。中国は世界制覇の野心をもつ共産党政権が主導する国家だ。中国が人権分野で「開発途上国」を敢えて甘受したとしても、国際社会は「人権問題」を追及し続けるべきだ。なぜならば、「人権」は経済発展や安保問題に左右されるものではなく、人類の普遍的な権利だからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2021年3月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。