「無能な働き者」につけたい3つの治療薬

黒坂 岳央

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

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昨今、プラゴミ問題が話題になっている。これまで無料配布してきたプラスチック製スプーンの「有料化」への動きがあり、国民からの強い反発を呼んだことで環境省へ苦情の電話が相次いているという。

個人的に興味深かったのは、この問題提起への反応にある種の共通点が見られたことだ。スプーン有料化を提起した人物に対して、「このような無能な働き者による愚策が、日本を滅ぼす!」といった強い論調で批判が巻き起こり、SNSを中心に「無能な働き者」というワードの合唱が起こっていた。

今回はこのスプーン有料化問題の是非はさておき、「無能な働き者」にキクことが期待できそうな3つの治療薬を論考したい。

無能な働き者とは何か?

この概念の出どころは、ゼークトの組織論からとされてされる。軍人には以下4つのタイプがあるという話で、無能な働き者もその1つである。

  • 有能な怠け者は指揮官にせよ
  • 有能な働き者は参謀に向いている
  • 無能な怠け者は連絡将校か下級兵士が務まる
  • 無能な働き者は銃殺するしかない

出典元や定義の表記には揺れがあり、ドイツの軍人ハンス・フォン・ゼークトによるとされるが、実際には別の人物によって提唱されたという有力説も存在する。いずれにせよ、注目すべきは「無能な働き者は、無能な怠け者以上に活用法がなく、精力的に活動することで周囲の人間に迷惑をかけてしまう」という話である。

さらに多くの場合、厄介なのは無能な働き者は権力を持ち、本人にその自覚がない点にある。

無能な働き者とイノベーターの共通点と違い

無能な働き者とイノベーターは共通点がある。

まず、両者ともに「周囲の理解を得られない」という点である。世界的起業家はどちらかといえば「尊敬の念」より「クレイジーの称号」を欲しいままにしているケースが多いだろう。あまりにも常人離れした発想力と行動力で、一般人からの理解が得られないからだ。事例をあげるなら、ポストジョブズと言われ、テスラ・モーターズ社を率いるイーロン・マスク氏である。「コスト100分の1のロケットの再利用」という非常識なイノベーションに挑戦し、一時は破綻寸前まで追い込まれるも、時価総額ランキング上位まで自社を成長に導いた天才的ビジネスマンだ。

その一方で無能な働き者は、徹頭徹尾、周囲の支持を得ることはない。イノベーターとの最大の違いは、無能な働き者が示すビジョンが市場の支持を獲得できない点にある。イノベーターの場合は「すごいアイデアだけど、そんなことはできっこない」と実現可能性に対して批判を受けるが、アイデアそのものは支持を得ているケースもある。だが、無能な働き者の場合、彼らの仕事をそもそもマーケットが受け入れない。つまり、働いている本人だけが仕事をする気になってしまう「裸の王様」状態なのである。

無能な働き者につけたい3つの治療薬

無能な働き者を卒業するためには、どうすればよいのだろうか?下記に筆者が個人的に考えた3つの治療薬を提案したい。

まずは「マーケットの支持を得る」という意識を持つことである。100%でなくてもいい、しかし0%ではダメだろう。仕事とは、つまるところ、第3者に求められることをなす活動だ。筆者はフルーツギフトショップと、英語学習のオンラインスクールを運営しているが、前者は果物を贈り物に使うことで喜ばれ、後者は英語力に悩む学習者に喜ばれるためにサービスを提供している。つまり、マーケットの支持が得られない活動は仕事ではなく、単なる自己満足の趣味だ。一人で勝手にやるなら誰も文句は言わないが、仕事としてやられるのは周囲が困る。無能な働き者は仕事をする立場であるため、支持者がいないことをしてはいけない。

そして「多面的な視点を持つ」ことである。新たな施策を打ち出す時は、メリットとともにデメリットも想定される。たとえば「職場から喫煙室を撤去する!」といった施策を出す場合はどうなるだろうか?タバコを吸わない人はメリットを享受できる一方で、愛煙家にとってはデメリットに感じるだろう。もしかしたら、仕事ができる愛煙家が、一斉に退職してしまう潜在的リスクがある。やめなくても、完全喫煙によって一時的に仕事のパフォーマンスが落ちる可能性もある。この場合、社内で非喫煙者と喫煙者の存在する割合を分析するところからスタートするなど、影響程度の割合を探り、多面的な視点で導入是非を検討するのだ。無能な働き者一人で打ち出した施策が走れば、壊滅的結末をもたらす。ワンマン経営者が暴走することで、会社組織がブラック化するケースがこれが原因だ。

最後に「自分の考えに誤りが含まれる可能性がある」という思考の余地を残しておくことだ。無能な働き者は「周囲の理解は得られていないが、時間の経過によって徐々に受け入れられていくだろう」という具合に、「自分の考えは完全に正しい」という前提で愚策を打ち出す傾向があるのではないだろうか。だが、どんな人でも過ちを犯す。それが優秀な人物でも変わらない。この場合、第3者のオピニオンに耳を傾けることで、より市場に支持される施策へと近づくのではないだろうか。そのためにも、自分の思考の正当性を過信しないことである。

以上があくまで個人的なアイデアだ。無能な働き者に欠けているのは「市場性」であるため、それを取り入れることで善処につながるのではないだろうか。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。