女性議員増加の軌道:ハードランディング、それともソフトランディング?

私が取り組み始めた14、5年前、女性の政界進出は日本の政治学会では取るに足りない問題のように扱われ、隅っこに追いやられた。しかし、今日、このテーマを本音はともかくも表立って小馬鹿にする政治学者はさすがにいない。政界も然り。女性議員増加の必要性について、与野党ともに一定の合意ができてきたようだ。そこで、次の課題は、どのように女性議員を増やすのか、その方法である。

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下記のグラフは、女性議員比率の推移を、日本の衆議院、フランス国民議会、アラブ首長国連邦(UAE)国民評議会、そして世界平均(二院制の場合は下院で、比較対象国は1997年の177カ国から順次増え、2017年より193カ国になった)を比較したものである。フランスと世界平均については、1996年のデータが入手できなかったため、1997年以降を示した。UAEは、2006年に連邦国民評議会(FNC)の40議席のうち半数が国民の直接選挙で選出されることになり、同年より女性の政治参加も始まった。

出典:衆議院は総務省選挙関連資料による。フランス、UAE及び世界平均は列国議会同盟が公表した資料に基づく。

衆議院の女性比率は、世界平均の半分にも満たず、世界における順位は193カ国中166位、先進国には相応しくない数値だ。日本が20年余りの間に5ポイントほどしか増えていないのに対し、世界の進展は目覚ましい。これを支えるのが、多くの国が採用するクオータ(quota)法制だ。クオータ制度には、全議席に占める女性の割合を定める「議席クオータ」と選挙候補者のうちの一定比率(30〜40%が多い)を女性にするよう全政党に命じる「選挙クオータ」がある。前者を26ヵ国、後者は57ヵ国が採用している(Gender Quotas Databaseより)。

UAEで初めて行われた2006年の選挙で、女性は23%を占めたが、2019年10月の選挙では、40議席のうちの半数を女性に割り当てる大統領令が出され、男女同数が達成された。20の女性議席の内訳は、7が選挙で選ばれ、残り13は大統領による任命である。議席クオータは即効性があり、効果も満点だ。しかし、民主主義の硬直を招くため、最も批判される方法である。主に、戦争や紛争の後、民主的議会制度による国家建設が始まったばかりの国々で採用される。たとえば、2004年にアフガニスタンが249議席中27を、イラクは2009年に議席の25%を女性に配分する制度を導入した(Gender Quotas Databaseより)。

選挙クオータも同じく、こうした新たに国づくりを始めた国家で取り入れられることが多い。一例が2002年に独立した東ティモールで、2006年に候補者の30%を女性とするクオータを選挙法に盛り込んだ。直近の2018年の選挙で女性議員比率は38.5%になった。

西欧先進国でも、1994年ベルギー、2000年フランス、2006年ポルトガル、2007年スペイン、2012年アイルランドとギリシャが選挙クオータ法制を取り入れた。多言語国家のベルギーでは、言語グループ毎のクオータ制度がすでに実施され、それをジェンダーに拡大したに過ぎない。ポルトガルの33%とスペインの40%という枠は、導入以前に達成されていた女性比率、すなわち前者が28.3%、後者36.6%に近く、実現容易な数値であった。他方、フランスが導入した、男女の候補者を同数にすることを政党に義務付けるパリテ法は、当時女性議員比率が10%程度でしかないなか思い切った目標であったうえ、制度上の欠陥もみられた。

まず、パリテの導入時には、罰則規定が設けられていなかった。そのため、法は遵守されず、導入後初の2002年の総選挙では効果を発揮できず、2007年に違反政党には選挙助成金を減額するという罰則規定を盛り込む改正が行われた。それでも、主要政党の腰は重く、パリテに遠く及ばず、グラフのように女性議員比率も伸び悩んだ。政党が法を遵守できなかったのは、現職の男性議員を女性新人候補に挿げ替えるのが難しかったからだ。違反して払う罰金とより多くの当選者を出して獲得する政党助成金とを比較すると、主要政党の場合、助成金が罰金を上回った。日本に限らずどの国でも、現職の当選率は高く、政党としては失いたくない候補者である一方、新人はリスクが大きい。

ところが、2017年6月の国民議会選挙では、エマニュエル・マクロン大統領が直前に結成した新党「共和国前進」がパリテを遵守した男女同数の立候補者を揃えた。同党は577のうち308議席を獲得し、145人の女性が当選した。共和国前進の女性当選者が多数出たことで、国民議会の女性比率も40%にまで急増したというわけである。マクロン新党がパリテ法に忠実に女性候補者を擁立できたのは、結成されたばかりの政党で、現職不在の選挙区が多数あったからだ。また、穿った見方をすれば、急拵えで候補者をかき集めるには女性の力を借りざるを得なかったのかもしれない。ジェンダー平等に敏感なマクロン大統領の考え方も反映されていもいよう。

一夜にして女性議員を劇的に増やせるクオータ法制は、魅力的な手法だ。日本のかくも悲惨な状況を変えるには、強制力を持ったクオータで一気呵成にやるしかないという声も少なくない。しかし、空席選挙区の多い野党ならいざ知らず、多数の男性現職を抱える自民党にはできない相談のようにみえる。強行突破で実施すれば、党内に修復不能な亀裂が生じたり、激しいバックラッシュを喚起したりする恐れもある。

方や、当選の可能性の高い空白区や引退議員の後任に女性を優先的に立て、確実かつ不断に女性を増やしていく漸進的方法は、亀のような歩みの鈍さに苛立ちを覚えるものの、政治的混乱を抑制し、穏やかな着地ができる。もっとも、この方法では、政党が強い意志を持って努力を続ける一方、有権者にはそれが喪失しないように常に監視しなければならないので、心許なさが残る。さて、ハードとソフト、日本の政治にはいずれが望ましいのであろうか。