沖縄の全米軍基地を「自衛隊基地」として返還せよ。 --- 並木 浩一

“沖縄の基地問題”は、正しくは「沖縄の米軍基地問題」である。この当たり前のことが、辺野古移設反対のイシュー化を機に、自衛隊の違憲を主張するイデオロギーと混濁し、問題の実相を見えにくくしている。

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実際、沖縄に返されるべきは、ただ基地なのではなく「米軍基地」である。沖縄のことを“基地の島”と自嘲して語るのも、それが他国の基地であるからだ。ワイキキがあるハワイのオアフ島はそれこそ基地の島だが、誰もそれをネガティブには語らない。沖縄の基地の問題は、それが自衛隊の基地ではないことにある。

われわれが旅行や出張で降り立つ那覇空港は、1975年に返還された元・米海軍施設であり、現在も航空自衛隊と共用されている。そこからほど近い陸上自衛隊那覇駐屯地も、1972年に返還されたものだ。そして、那覇空港反対闘争などは起きていないし、那覇駐屯地のオープンデーには多くの家族連れが訪れる自衛隊に対する過去の反感は否定しないが、現在の沖縄県民は、米軍基地に反対しながら、自衛隊を許容することが普通のことである。

「米軍基地反対」の大きなうねりは、それを自衛隊基地としての返還を求めることで、県民感情に配慮した現実的な着地点を見いだすことができる可能性が高い。

では米軍は、「自衛隊基地としての返還」に応じるだろうか。まず交渉上の問題であるが、日米地位協定上は十分に可能である。つまりは、民有地としての不可逆的な返還ではなく、実態としては基地の管理権の移管であり、それが米軍のそれ以降の使用を拒絶するものでなければ、実質的に米軍のプレゼンスは下がらないからだ。

沖縄の戦略位置付けに関して、米軍にとっては朝鮮半島有事の際の自国民と自国権益の保護が最重要課題で、中国の南シナ海進出への牽制が続く。前者は主に海兵隊のマターであり、後者は海軍・空軍の課題である。いっぽう日本の側にとっては尖閣諸島の防衛という問題があるのだが、その状況の変化と呼応するように、現在は佐世保に置かれている日本版海兵隊=水陸機動団がすでに発足している。なにより今後は、日米が共同で開発を進めている新型迎撃ミサイルを中心に、防衛のかたちは変ってくる。沖縄を出ていきにくい米軍が出ていける状況が、着々と出来つつある。

全部が片付くには時間を要するだろうが、客観的にみても、読谷村のトリイ通信施設をのぞいて、米軍は沖縄駐留に絶対的に固執しているとも見えない。この先も移転先の第1候補であるグアムのほうが、彼らにとっても居心地のいい、「自国(準州)の基地の島」なのである。

沖縄においては、今日でも、終戦時以降に「銃剣とブルドーザー」によって土地を収奪された恨みは根強い。その当事者である米軍から自衛隊に基地の管理が移れば、それが土地の返還を直接的に意味するものでなくとも、問題はかなり整理される。自衛隊は米軍から交渉で土地を取り戻した存在と見立てることもできる。

その上で、地権者には現在支払われている軍用地代の権利を保証し、現在も制限されている敷地内の墓地、聖所等への往来に誠実に応じ、耕作黙認地を継承するなど、沖縄特有の事情下での地元住民への配慮を最大限にすべきであろう。沖縄県民対米軍の永遠の対立の構図は、地元民と自衛隊の交渉と融和の構造に転換しうる。いま求められるのは「反米軍基地」ではなく、「全ての米軍基地を自衛隊へ」という、理想的で現実的なスローガンではないだろうか。

並木 浩一 桐蔭横浜大学教授、博士。
1961生まれ。神奈川県立希望ヶ丘高校、青山学院大学、放送大学大学院修了、琉球大学大学院中退。京都造形芸術大学大学院博士課程修了。ダイヤモンド社編集委員を経て2010年に大同大学教授、2012年より現職。2017年には希望の党より衆院選出馬(比例九州・沖縄)