レジ袋有料化でGメンもお手上げのステルス万引き増加…責任は誰が取るのか?

黒坂岳央(くろさか たけを)です。

GoodLifeStudio/iStock

2020年7月、小売店でレジ袋有料化が義務付けられた。有料レジ袋を利用しない人は倍増し、エコバッグを使う人が8割弱(LINEリサーチによる調査)と大きな変化が生じたことが明らかになった。施策を考案した経済産業省は、この日本人のライフスタイルに変化をもたらしたことに「政策成功」と手を打って喜んでいるに違いない。

だが、新しいシステムの導入というものは、必ずメリットともにデメリットも生じるのが世の常だ。そして、レジ袋有料化についていえば、個人的には残念ながらデメリットがメリットを上回っていると感じる。本稿のタイトルの通り、マイバッグ持参が万引き件数を増加させたのだ。さらに悪いことに、従来と異なり万引きの未然防止も難化してしまった。

レジ袋有料化で万引きが増加する恐るべき事態に

北海道新聞の掲載された記事によると、万引きの件数が増加しているという。

警察庁によると、昨年の全国の万引の認知件数は8万7280件(前年比7・0%減)、検挙率は71・7%(同1・5ポイント増)にとどまる。しかし全国スーパーマーケット協会が昨年9月に会員を対象に実施したアンケート(85社回答)では「マイバッグ普及で万引や盗難が増えたと感じるか」との質問に、3割に当たる計26社が「かなり増加」「やや増加」と答えた。

引用元:北海道新聞「マイバッグ悪用、万引後絶たず レジ袋有料化8カ月 スーパー苦慮」

警察庁の万引き認知件数は大きく増加していないのにも関わらず、小売店での認知件数は3割が「増加」と回答した。この認知件数の乖離は、「ステルス万引き」が起きている可能性がある。この仮説が正しい場合、店舗から品物はなくなっているのに、万引き犯を発見できないということを意味する。小売店にとっては、まさしく恐るべき事態だ。

万引き犯の多くは大半の商品をレジに通し、一部の商品を未会計にするという手口が多い。万引き犯を捕まえるGメンこと私服保安官は、店のレジ袋を持っているかで精算・未生産を見極めるシグナルにしていた。だが、マイバッグとマスクに顔が隠されたことで、もはやGメンもお手上げ状態だ。店舗に設置された監視カメラも、マスク下の顔までは暴くことはできない。万引き犯に取っては春が訪れ、小売店には地獄がやってきた。

AI無人店舗がソリューションか?

個人的には小売店の経営者や従業員のご苦労を考えると、ただちにこの施策を止めて頂きたい思いだ。しかし、おそらくそれは望み薄だろう。だが希望を捨ててはいけない。昔から「災い転じて福となす」という言葉がある。この逆境をポジティブな未来に変えるための、新たなる対応を模索に知恵を絞りたい。僭越ながら、門外漢の素人の筆者が考えてみた。

そもそも、万引きという概念をなくさせる方法がないだろうか。その答えが「Amazon Go型店舗」である。顔認証技術に頼らず、膨大な監視カメラや、重量センサー、近接センサーなどのテクノロジーを駆使した店舗である。これにより「万引き」という概念がなくなるだろう。店舗から商品を出した時点で「お買い上げ」として請求を受けることになるからだ。もちろん、100%はない。とあるYouTuberが発見されずに万引きを成功させたという話もある。だが、万引きGメンの目をかいくぐるよりは遥かに難しいはずだ。

問題はシステム導入における、ベラボウなコストだ。たとえばAmazon Goの設置コストは数億円と推定される。また、利用客はAmazonアカウントが必須となるため、アカウントが発行できない高齢者顧客の買い物難民化は避けられない。必然的に小売店の売上も低下するだろう。若者の利用を多く見込める都心一等地への設置なら、莫大なコストをペイできる可能性はゼロではないだろう。だが、地方は絶望的だ。さらにシステムの設置コストや維持費などの支払いをAmazonにするということは、小売店舗の運営資金が国内企業から米国へ移転するという懸念も生まれる。

我が国においては、昭和時代まで買い物をする際はマイバッグ持参が当たり前だった。サザエさんでは、作中で買い物にかごバッグを使っている描写がある。だが、レジ袋無料化の流れでマイバッグは少数派となり、生活は便利になり、かごバッグは懐かしき昭和レトロの思い出となった。しかし、令和の今、その次代へ戻る必然性は本当にあるのだろうか?そんな疑問が湧いてしまう状況が今、静かに、だが確実に起きている。

ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。