炭素税って何?

池田 信夫

4月の日米首脳会談では、炭素税(カーボンプライシング)がテーマになるといわれています。EU(ヨーロッパ連合)は今年前半にも国境炭素税を打ち出す方針で、アメリカのバイデン政権も、4月の気候変動サミットで炭素税を打ち出す可能性があります。マスコミは「日本は世界の流れに乗り遅れるな」といっていますが、これはそう単純な問題ではありません。

Q1. 国境炭素税って何ですか?

ひとことでいうと、CO2にかける関税です。といっても単なる保護主義ではなく、地球環境を守るという理由があります。今でもEUの域内ではETS(排出枠取引制度)があり、温室効果ガスの排出枠を売買していますが、それを輸入品にも適用しようというものです。

Q2. どういうふうにかけるんですか?

次の図のようにEUの域内でかけている炭素税と同じ税率を、税関で域外からの輸入品にかけるものです。輸出するときは、域内でかかった炭素税を還付します。

Q3. これにはどういう影響がありますか?

国境炭素税は関税ですから、日本からEUへの輸出品の価格が上がり、売れなくなるでしょう。たとえば自動車の場合は、工場で自動車をつくるとき消費するCO2の量も計算するので、日本のように電力の75%が化石燃料だと、税率が非常に高くなります。

Q4.日本でも炭素税がかかるんですか?

国境炭素税は普通の関税とはちがい、国内で炭素税をとっている国は軽減されます。たとえばEUの国境炭素税が10%なら、日本も10%の炭素税をとれば関税はゼロです。EUにとられるより国内で炭素税をとったほうがましなので、各国の国内でも炭素税ができるでしょう。

Q5. 国内の炭素税はどんなしくみですか?

これは国境炭素税と同じようなしくみを国内でも使って、CO2の排出量1トンあたりいくらという形でかけます。たとえばトンあたり1万円だと、ガソリン1リットルあたり6円ぐらいになります。ガソリンの価格を150円とすると、税率は4%ぐらいです。

Q6. 炭素税の税率はどれぐらいですか?

スウェーデンはトンあたり約1万5000円、スイスは約1万1000円、フランスは約5600円とバラバラで、かけていない国も多い。実は日本でも「地球温暖化対策税」をかけていますが、これはトンあたり289円だけです。

Q7. これから税率は上がるんですか?

炭素税は化石燃料の消費を減らすための税金ですから、少額では効果がありません。たとえばビル・ゲイツさんは「CO2排出ゼロにするにはガソリンに106%ぐらい税金をかけるべきだ」といっています。

Q8. 日本ではどうなるんですか?

日本でも菅首相の約束した「2050年カーボンニュートラル宣言」を踏まえて、今年から炭素税の検討が始まりました。小泉進次郎環境相はカーボンプライシングを推進しているので、日本でも遅かれ早かれ炭素税は出てくるでしょう。

Q9.  炭素税は何に使うんですか?

炭素税は増税ではなくCO2排出へのペナルティなので、使い道は一般財源にすべきです。今の固定価格買取制度(FIT)のように、電力利用者の賦課金を再エネ業者に所得移転することは好ましくありません。こういうアドホックな補助金や税金をやめ、炭素税に一本化することが理想です。税収中立にするには、炭素税の分だけ法人税を減税するとか社会保険料を下げるという提案もあります。

Q10. 炭素税は何%ぐらいかければいいんでしょうか?

地球温暖化の弊害はどれぐらい大きいのか、今のところよくわからないので、最初はトンあたり40ドルぐらい課税し、必要なら増税するというのが、3500人の経済学者の共同提案です。日本はすでにFITなどで実質的にかなり高い炭素税をかけているので、今後EUなどと交渉するときは、それを炭素税に換算する必要があるでしょう。

脱炭素化は小泉さんや日経新聞が幻想を振りまいているような「成長の源泉」ではなく、社会全体の負担です。2050年にCO2排出をゼロにするには、毎年100兆円以上の負担が必要です。これを炭素税に置き換えると、現在の税収のほぼ2倍です。地球温暖化が本当に深刻な問題なら一定の負担は必要ですが、適正な負担を決めるには炭素税として目に見える形にして、国民が選挙で選択すべきです。