タイでプラユット首相の怒りを買った東京新聞女性記者

藤澤 愼二

記者会見で東京新聞女性記者に怒ったビッグトゥ(タイのプラユット首相の愛称)

これはタイのテレビでも放送され、タイコミュニティの間で賛否両論、ちょっと話題になっている話です。

去る3月30日のことですが、タイのプラユット首相の定例記者会見の席で首相の前でふてぶてしく足をんでいた外資系新聞の女性レポーターに対して、イライラした首相がとうとう我慢できず、“あんた、私の前で足を組んでいるが、足をおろせないのか? それ、その足だ!”、と怒ったという話です。

この写真はその時のテレビ放送のスナップを私が撮ったものですが、まさに首相がその女性記者に対してタイ語の強い口調で注意をしているシーンです。

そして、なんとその女性レポーターが実は東京新聞の記者だったということで、欧米系でないところがちょっとびっくりです。もっとも、日本人記者ではなくタイ人記者ということですが…。

でも、日本人女性記者でなくて本当によかったです。もしこれが日本人記者だったら、今ごろ東京新聞は10万人もいるというタイの日本人コミュニティから日本の恥だとかいわれて、総スカンに会い、ちょっと大変なことになっていたかもしれません。

ところで、これについてはこんなことで怒り出す首相はやはりリーダーとして器量が狭く相応しくないという意見と、タイでは目下のものが目上の人の前で足を組むのは失礼だという文化があり、この女性記者に非があるという意見の両方があるようです。

ちなみに、私も東京では長い間、外資系投資銀行で働いていましたが、欧米人女性がミーティング等で足を組んで座るのはもともと文化が違うとわかっていたので何とも思わなかったし、アメリカの記者会見などは上の写真のような感じで女性記者が大統領の前で平気で足を組んで座っています。

しかし、外資系だからなんでも欧米の真似をすればいいというものではなく、もし大して親しくもなく年齢もずっと下の日本人が、シニアの立場の私の前で足を組んでいたら、男女を問わず随分偉そうな態度だなと、私は不快に感じたと思います。

そういう意味では、タイ語の“グレンジャイ(遠慮)”の精神などタイと日本の文化は近いところがあり、欧米の個人主義に基づく何でも自己主張できる文化とは違うので、これに対する以下のタイ人のコメントには、私は同意します。

タイの伝統文化では、人前で足を組むのは力関係を表すものであり、若者は目上の人の前では足を組むべきではない

一方、この女性記者もよくないのは、その後の報道によればツイッターの中でこんなことを書いていたそうです。

この東京新聞の記者はそのツイッターの中で、プラユット首相が怒ったのは自分に対してであるとわざわざ明かしただけでなく、その直前にはこの政府高官との記者会見を待つ間、会場の建物の前で長い間、“犬”のように待たされたと次のような毒舌を吐いていたのである。

私は政府高官たちが記者会見のためにオフィスから出てくるのを待ちながら、まるでエアコンの冷たい空気を求めてセブンイレブンの入口の前でじっと座っている犬のような気分だった。

そして、これを読んだ政府スポークスマンの取った行動が以下です。

私は東京新聞に対し、間違ったおかしな情報を拡散しないようにもっと従業員のしつけを徹底するように注意した上で、彼女が態度を改めるまで政府の記者会見には参加させないと伝えた。

この事件で、タイの伝統文化に従って注意したプラユット首相が、国のリーダーとして相応しくないという意見にまで発展するのは飛躍しすぎだと私は思うし、東京新聞もこの勘違い記者に対してその言動には日系の新聞記者としての自覚を持つように、もっときちんと教育しておくべきだったのかもしれません。

最後に、タイジャーナリスト協会のコメントを載せておきますが、タイに住み始めてちょうど10年になる私としては、この意見に全く賛成です。

タイジャーナリスト協会倫理委員会のバンヤンスワンポン氏もこの記者を、目上の人の前で足を組むのは「敬意の欠如」であると非難した。