中国を取り巻く人権問題と北京五輪ボイコット圧力

バイデン政権が北京五輪対応について同盟国との対話を開始したいという意思表明をしました。国務省のプライス報道官が同盟国とのボイコットを含む議論を求める発言をしたのです。但し、この発言は国務省内部で十分に足並みがそろった形ではなく、とりあえず、小さめの花火を打ち上げてみた、という感じだろうと思います。当のプライス報道官も「まだ4月なので時間がある。取り組みについての時間的枠組みを決めたわけでもない」とも発言しています。

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但し、バイデン政権が人権問題に対して厳しい姿勢を見せることはバイデン氏の政治的立ち位置からも、あるいは世論を味方につけやすい点からも一歩も後に引かないであろうことは容易に推測できます。また、ファイブアイズの中でもカナダやオーストラリアは個別に中国との関係が傷んでいることもあり、同調しやすい環境にあります。

ただ、日本国内の声は正直、困惑しているというのが正しいのだと思います。理由はオリンピックを純粋なるスポーツの祭典と捉えたいという気持ちが強いこと、特にモスクワ五輪のボイコットがトラウマのようになっていることはあるでしょう。例えばマラソンの瀬古氏が出場していればメダル確実だったとしたら瀬古氏にとっては一生悔やまれるわけです。

ところがオリンピックの歴史を見れば政治ショーと化したことは何度もあるわけです。うがった見方ですが、北朝鮮が東京五輪に出場しないと決めた理由は単なるコロナ対策なのか、という疑問はあるのです。平昌の冬季五輪が朝鮮半島の政治サロンと化したことは記憶に新しいですが、7日のソウル、プサンの市長選での与党敗北で文政権の危機が明白になった中、夏に東京で韓国を含めた政治討議はしたくないという意思の表れと見た方がすっきりするのです。(韓国市長選は事前から与党の敗北はほぼ見えていました。)

一方、西側諸国がボイコットを真剣に検討するには世論を巻き込まねばなりません。中国の人権問題については中国が徹底否定しているのは周知のとおりです。我々一般人にとっては新疆ウィグルで人権問題があったらしいということは何となく聞いていますが、具体的にどういう問題なのか、それが表立って出たことは少ないかと思います。

そんな中、産経が7日付で「脚に鎖、注射を強制…ウイグル人女性が語る『洗脳』体験の詳細」という生々しい記事を報じています。特に有料版の内容はより具体的でこんな洗脳は戦後の日本兵シベリア抑留時代か中国の文化大革命と見間違うほどで現代社会では考えにくいほどの虐待のストーリーを読み取ることができます。これがもし、ほんの一例であってこのような実話がまとまりとなって西側諸国に広がるなら現地の人間に厳罰を与えるトカゲのしっぽ切りをしても、中国の立場は非常に苦しくなるでしょう。

中国は「自国の政策にいちいち口を出すな」と繰り返し声明を出します。が、なぜ西側諸国はそれでも構うのか、といえばイスラム国処置の残影があるとみています。大量の難民が欧州などに押し寄せ、最終的には英国のEU離脱をも引き起こしました。難民は昔からあった問題でありますが、今はその規模が尋常ではなくなり、当事者の問題では済まされないのです。

もちろん中国は亡命者、難民を徹底潰しをしようとするでしょう。しかし、それはもはや絶対に許されない時代になったのです。「生まれた国は宿命ではなく、運命である。人は人生を変えられるのだ」という意識が持てる時代になったのです。

ところで私がみる最近の韓国は明らかに元気がなくなりました。かつての血気盛んな韓国ではありません。それがなぜなのか、究明していますが、明らかに意気消沈しています。それ以上に韓国の中国に対する反発が増えてきています。一方、中国は韓国を手駒にしようとしています。2月に就任したばかりの外務大臣、鄭義溶氏は4月3日に中国王毅外相に台湾の対岸、アモイに呼び出され、踏み絵的な外相会談を行いました。

一方、アメリカは日米韓の連携のみならず、韓国に目を覚まさせようと叱咤激励をしている状況です。どっちつかず(=いいとこどり)の外交は朝鮮半島の歴史そのもので今でも全く変わっていませんが、いつもうまくいくわけではないということを米中双方があめとむち作戦で臨んでいるように見えます。この国内切り裂き合戦、どうなるかと言えば歴史が正しければ日本になびくとみています。そうせざるを得ないのです。

外交が複雑怪奇となっています。そしてその舞台は東アジアにあるということ。その中で日本はコロナもあり、外交が不活発になっていることは憂慮すべき点でしょう。対中国問題も西側諸国に日本のの立場をどうプレゼンテーションするのか、その能力が問われそうです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2021年4月9日の記事より転載させていただきました。